女王陛下のお婿さま
 陽が昇ろうとしているのだろう、だんだんと窓の外が白み始めていた。夜明けを告げるヒバリの鳴き声が聞こえた。

『――強く、なりたい……』

 ヒバリの鳴く声にかき消されそうな程小さな声。

『クラウス……?』

『ティナを守れるくらい、強くなりたい……!』

 そう言って顔を上げたクラウスの瞳から、ポロポロと涙が零れた。

 アルベルティーナはベッドから降り、窓へ向かった。窓の外、山の向こうから太陽の光がこぼれ始めているのが見えた。その光で、空も雲も赤く染まる。

『もうすぐ夜が明けるわ、クラウス。それなのに泣いてたりしたら、昇ってきたお日様に笑われちゃうわよ』

 アルベルティーナの言葉に、クラウスはゴシゴシと両手で涙を拭った。そして立ち上がると彼女の隣に。

 二人並んで、しばらく朝焼けを眺めた。

 山の向こうから徐々に太陽が昇ってくる。それにつれ、空が白み光を反射して雲が赤く焼け。ゆっくりとゆっくりと、朝になってゆく。静かで美しい、一日の始まりだ。

『――なれるよ、クラウスなら。私だけじゃなく、この国のみんなを守れるくらい強く』

 アルベルティーナは朝焼けを眺めながらそう言い、隣のクラウスの手をキュッと握った。

『……国のみんなを守るのは、国王であるティナの父様だろ。俺は、ティナだけを守れればいい』

 今度はクラウスが、握られたアルベルティーナの手をギュッと握り返す。お互い顔は見ず、朝焼けだけを見つめていた。

『……じゃあ、私はクラウスを守るよ!』

『俺は、ティナを守る……!』

 そう言うとアルベルティーナはクラウスを見つめ、クラウスはアルベルティーナを見つめ。二人は照れくさそうに笑い合った。

 それは、朝焼けの中で交わされた、幼いが真っ直ぐで純粋な約束……





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