女王陛下のお婿さま
 ……子供の頃も、同じ事があった。

 今朝見た夢と同じだ……あれは十歳ほどの頃だった。鏡の泉でクラウスと舟遊びをしていた。そこに山からの突風で水面が揺れ、小舟からアルベルティーナが湖に落ちてしまったのだ。

 その時は、同船していた供の者が彼女を助け、事なきを得たのだが。湖に落ちたショックと溺れかけた事でアルベルティーナは熱を出してしまった。

 熱にうなされ、湖に落ちてからの事はよく覚えていないが……その後アルベルティーナが自分のベッドで目覚めると、そこには薄暗闇にクラウスの姿。

 アルベルティーナのベットに突っ伏し眠っているクラウス。頬には涙の跡が付いていた。どうやら一晩中、看病に付いていてくれたみたいだった。

 まだ夜が明ける前だ。アルベルティーナはクラウスを起こさないようにと思っていた。しかし起き上がった事でベッドが揺れてしまったのだろう、結局クラウスは起きてしまった。

『ティナ……熱は、大丈夫……?』

『うん、だいぶ良いみたい。クラウス、ずっと居てくれたの?』

『うん、だって……俺のせいだから……』

 クラウスはアルベルティーナが湖に落ちたのも、熱を出したのも、自分のせいだと思っているようだった。

 アルベルティーナは、クラウスがどうしてそんなふうに思うのか分からなかった。

 湖に落ちたのは突風のせいだし、熱を出したのは水に濡れたから。クラウスはたまたま一緒に居ただけだ。

『別にクラウスのせいじゃないわ。あの湖は時々山からの突風が吹くって、前にマイラが言っていたもの。だから全部、風のせいよ。それに船から落っこちちゃうなんて、私の運が悪かったんだわ』

 うつむくクラウスをアルベルティーナは一生懸命励ましたが、やはり彼は顔を上げなかった。
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