女王陛下のお婿さま
 アルベルティーナにとっては懐かしくて嬉しい事なのに、どうしてクラウスはそんな顔をしているのだろう。それが分からなかった。

「あの頃と何も変わってない。私は今でもクラウスを守るよ」

 アルベルティーナがそう言うと、クラウスはふいと彼女から視線を反らしてしまった。

「……あの頃とは違う。お前が守るのは、この国の国民だ……お前は『女王陛下』なんだから」

 あの頃とは、違う……

 それはまるで、クラウスの心もあの頃と変わってしまった、そう言われたような気がした。

「どうしてそんな事を言うの? 王位を継いでも、私は変わってないよ。もちろん女王として国民は守る。でも……」

 でも……

 アルベルティーナはその先の言葉を言おうとしたが、自分と全く目を合わせてくれないクラウスを見て、言うのを止めた。その先は、言ってはいけないようなそんな気がしてしまったのだ。

「……ねえ、クラウス。昼間、湖に落ちた私を助けてくれたのは、クラウスだよね……?」

 水の中で聞こえた『ティナ』と呼ぶ声。あれは、クラウスだったのだと信じたい……


 『私はクラウスを守る』

 『俺は、ティナを守る』


 子供の頃に交わした約束。それはまだ、大切なものなのだと確かめたかった。

 今は女王とそれに仕える侍従と、状況は変わってしまったけれど……昔と何も変わらない幼馴染みとして、交わした約束は続いているのだと。

 しかし――

「――違う。助けたのは、ファビオ王子だ」

 朝を告げる、ヒバリの鳴く声が聞こえた。

 子供の頃に聞いたヒバリの声は、明るい朝を告げる楽しげな声だったのに。今聞こえた鳴き声は、何故か泣いているようにアルベルティーナには感じる。

「……もう、朝だな。お前が起きたって、マイラに伝えてくる……」

 クラウスは結局部屋を出る最後まで、アルベルティーナと目を合わせる事は無かった。





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