女王陛下のお婿さま
 クラウスがアルベルティーナの部屋を出ると、そこにはファビオが立っていた。ドアのすぐ横の壁に背をつけ、腕を組んで。

「ファビオ王子……」

 彼の前で立ち止まると、ファビオは壁から背を離しクラウスの前に立ちはだかった。

「悪いな、クラウス。女王陛下の様子を見に来たら、お前たちの話し声が聞こえてな」

「いえ、聞かれて困るような話はしていませんから……」

 まるでクラウスの言葉が耳障りだったかのように、ファビオは少し顔を歪めた。

「なあ、クラウス……いいのか……?」

「何の事ですか?」

 今度はクラウスが、ファビオの言わんとしている事が分からなくて、顔を歪めた。察しの悪いクラウスに、ファビオは大きなため息を吐く。

「俺が本気でアルベルティーナを貰っても、いいのか?」

 ファビオの言葉に、クラウスは一瞬目を見開いた。しかしすぐにその視線をふいと彼から逸らす。何かを堪えるように唇を噛み締め、その言葉を飲み込んでしまった。

「……言ったはずです。私は、ファビオ王子に協力すると」

 ファビオは暫くクラウスを観察するように見ていたが、やがて不満げに、嘲るようにふんと鼻を鳴らした。

「そうか、分かった」

 ファビオはそれだけ言うと、クラウスにクルリと背を向け去って行った。アルベルティーナを見舞うつもりだったはずなのに、彼女の部屋へは入らずに。

 残されたクラウスはその場に立ちすくんでいた。暫くして大きく息を吐きだすと、マイラの部屋へ向かった。





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