女王陛下のお婿さま
 さっきまで城の上に見えていた三日月が、夜の黒い雲にかき消されていた。城門で馬を降り夜空を見上げていたクラウスは思わずため息を溢した。

 隣に立っていたヨハンがそれに気付き声を掛けた。

「――女王陛下が心配ですね……」

「はい……」

 クラウスは短い返事で答え、今度は城の入り口に目を向けた。ここでは人を待っているのだが……

 城の舞踏会はもうとうに始まっている時間だ。それなのに楽しげな人のざわめきや音楽が、少しも聞こえない。会場の大広間に入れずに右往左往している人々が見えるだけだ。

 そんな様子にクラウスは馬の手綱を握る手に、ギュッと力を入れた。

「こんな事になるなんて……申し訳ありません」

「ヨハン様が謝る事ではありません。大丈夫です、女王陛下はきっと……」

 ――彼女を守りたい。

 クラウスにとってその想いは永遠で不変。幼馴染みという関係から距離を置いたが、約束を違えたわけではなかった。

 そもそも距離を置いたのも、アルベルティーナを守りたかったからだ……

 自分は間違っているのだろうか……時折そんな考えがクラウスの頭に浮かぶ。アルベルティーナが彼を見つめる、泣き出しそうな瞳を見る度に。

 もう一度夜空を見上げたが、やはり三日月の姿は見えなかった。

 その時――

「――クラウス!」

 呼ぶ声に顔を向けると、そこには城から走って来たのだろう。息を切らせたマイラが立っていた。

「マイラ……? どうしてここに……」

 クラウスたちが待っていたのは彼女ではなかったのだが。

 アルベルティーナが倒れ侍医を呼ぶ為に、マイラは間一髪で逃れ、大広間から外へ出ていたのだ。
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