女王陛下のお婿さま
ヨハンが早々に国へ帰る為に部屋を後にすると、次に見舞いに訪れたのはファビオだった。
彼もまた、アルベルティーナが目覚めるのを待っていたのだ。クリストフは余程娘が心配なのだろう。ベッドの側から動こうとはしなかった。
ヨハンとは対照的に、ファビオはベッドの横の椅子に勧める前にどっかりと座った。
「――お加減はいかがですか? アルベルティーナ女王陛下」
少しふざけた感じでファビオはそう言った。いつもの彼だ。
大変な事があったのに変わらない……そんなファビオにアルベルティーナは安堵する。
「お気遣いありがとうございます、ファビオ王子。私の毒を消して下さったのも、騒動を察して動いて下さったのも貴方だと聞いています。本当にありがとうございました」
「父親として私からも礼を言わせてくれ。ありがとう、ファビオ王子」
「いや……無事で良かった」
珍しく素直にアルベルティーナが礼を言ったからだろうか、それともその父親にまで言われたからだろうか。ファビオは少し照れ臭そうに笑った。
「でも、どうして私が毒を盛られたとすぐに分かったのですか?」
「ああ、それは――」
――異母兄弟の多いファビオの王家では、昔から争いが絶えなかった。時には暗殺が企てられるほど。
それ故ファビオは、幼い頃から毒に体を慣れさせる訓練をさせられていたのだ。それは、ごく少量の様々な毒を体内に入れ、抗体を作るという方法。
「――だからあの夜、ルイの奴の蜂蜜酒を飲んだ時、すぐに分かったんだ。あの酒は、毒の味がした……」
そしてファビオは、旅の荷物に入れていた、毒の中和薬が入った砂糖菓子をアルベルティーナへ渡した。ごく自然に、ルイにも疑われないように。
砂糖菓子はとても上手く作用してくれた。だからアルベルティーナは舞踏会まで、体調を崩す事は無かった。