女王陛下のお婿さま
「何を迷う事があるんだ、ティナ? ファビオ王子は毒からお前を守り、さらに騒ぎを予見してヘーメルへ使者を出しヨハン王子を連れてきて下さった。こんなに頼もしい殿方は他にはいないだろう」
クリストフの言う通りだ。ファビオは一見、ガサツで図々しくていい加減で、我が儘に育った王子そのもののように感じる。
しかし本当は、思慮深く頼りになる。女王陛下の婿としては申し分無いのだ。
でも……
「ヨハン王子を連れてきた、と言えば……クラウスは……クラウスは、どうしていますか?」
何とか話題を逸らそうと口にした話だったが、それはアルベルティーナが一番気になっていた事だった。舞踏会のあの夜から一度も、彼の姿を見ていない。
クラウスがヨハン王子を連れて来たと聞いてはいたが……今日、ファビオが部屋へ来た時に一緒に来ると思っていたが、それも無い。
あの夜も、結局クラウスにはちゃんと会えなかった……
毒で意識が朦朧としていたから、クラウスの声は微かに聞こえたが、その姿を見る事は出来なかったのだ。目を開けた時にはファビオ王子が、自分を心配そうに見つめていた。
しかしファビオとクリストフはお互い顔を見合わせ、表情を曇らせた。
「おお、ティナ……お前はまだ知らなかったんだな」
「え……? 何をですか、お父様」
「クラウスは自分の実家、パレンの屋敷へ帰ったんだよ」
「えっ?! こんな時に里帰りしているの?」
城は舞踏会の後始末でゴタゴタしているし、まだ滞在している招待客もいる。だから侍女たちも大忙しで、マイラもてんてこ舞いだ。それなのに侍従であるクラウスが里帰りとは。
それに、自分が床に伏せっているのに、顔も見せてくれないなんて……
だが、クリストフは悲しそうに眉を歪めた。
「違うんだ、ティナ。クラウスは、パレン公爵家を継ぐ為に帰ったんだ。もう、城には戻って来ない……」
アルベルティーナは驚き目を見開く。そしてそのまま、動く事も話す事も出来なくなってしまった。
◇