女王陛下のお婿さま
09一番大切なもの
「――少し、お顔の色がよろしくないですね、アルベルティーナ様」
朝の身支度の最中だった。鏡に向かうアルベルティーナの後ろで、髪を結っていたマイラがそんな事を言った。鏡越しに目が合ったのをアルベルティーナは慌てて逸らす。
「少し……昨夜は寝付けなかったから……でも大丈夫よ、マイラ」
昨夜はずっと、クラウスの事を考えてしまった。
今、彼がどんな気持ちなのか、自分の事をどう思っているのか……でも、そんな事はいくら考えても分からない。それでも、考える事を止める事は出来なかった。
そして、自分はクラウスの事をどう想っているのか、どうしたいのか……
まだ答えの見えない頭の中の押し問答に再びハマりそうになってしまい、アルベルティーナはそれを振り払うようにマイラに話題を振った。
「ねえマイラ、今日の予定はどうなってたかしら?」
「ええと……午前は官僚たちとの定例会議です。昼食の後、午後はウェディングドレスの仮縫いをする事になっています」
「そう……」
こんな心境なのに、結婚の準備は着々と進んで行く。そうする事を、自分で選んでしまったのだから当然だ。
こんな時、自分が女王であるが故の不自由さを痛感する。一度決めてしまったら周りはそれに向かって動き、それを翻す事など容易く出来ない……
『――諦めの達人になるのか、諦めない達人になるのか』
そんなファビオの言葉が頭を過った。今のアルベルティーナは、もう諦めの達人になる方向へ舵を切ってしまったのだ。
マイラが髪を結い終えるとアルベルティーナは立ち上がり、官僚たちが待つ議事室へと向かった。