やさしく、恋が戻ってくる
やさしく、恋が戻ってくる
現場からの打ち合わせを終え、浩司がスマホを確認したのは、午後三時過ぎだった。
通知がひとつ。
「今日子」から。
胸が詰まる。
昨日の“今日は帰りません”の言葉がずっと頭から離れず、気が気じゃなかった。指先が少し震えながら、メッセージを開く。
「チーズケーキ、見たよ。
こうちゃん……覚えててくれて、ありがとう。」
「やっぱり、今日子はこうちゃんがいないとダメみたいです。」
「夜、ちゃんと帰ってきてね?」
その瞬間、心の奥で何かがほどけたような気がした。
(……よかった……)
安堵と、じんわりとこみ上げる嬉しさで、スマホを持つ手が重くなる。
一瞬、目を細めた浩司の頬が、ゆるやかにほころぶ。
.......なんだよ、それ。
口には出さず、心の中で呟きながら、彼は画面を見つめたまましばらく動けなかった。
胸の奥が、じんわりと熱を帯びる。
仕事で張りつめていた神経が、ふとほどける。
あの今日子が、こんなふうに素直な言葉をくれるなんて.....まるで夢みたいだ。
今日子は、まだ“こうちゃん”って呼んでくれてる。まだ、自分のことを、必要としてくれてる。
今までだったら、照れ隠しに冗談めかして言っていたかもしれない。
それが今日は、まっすぐで、甘えていて、それでいてどこか寂しさをにじませている。
……今日子の中にいる“女”が、自分だけを求めている。
そのことに気づいた瞬間、浩司の中に、静かに燃えあがるものがあった。
自分しか知らない今日子の声、今日子の表情、今日子のぬくもり。
「俺だけのものだ」、そう思えることが、どれほど男にとって誇らしく、救いになるか。
言葉を選ぶのが下手な自分なりに、できるだけ素直な気持ちを込めて、返信を打つ。
「メッセージ、ありがとう。正直、ほっとした。昨日は……本当にごめんな。
サプライズも台無しにして、自己嫌悪でいっぱいだった。」
少し悩んで、続けた。
「麻里子さんと、楽しく過ごせたか?今日子が笑っててくれたら、それだけで救われる。」
「夜、ちゃんと帰る。今日子の顔、見たい。」
送信ボタンを押す。ようやく、“帰る場所”が見えてきた気がした。
ほんのりと上がった口元には、愛しさと覚悟がにじんでいた。
彼女の“ただいま”が、自分の“おかえり”になるように。
夜が来るのが、こんなにも待ち遠しいなんて、どれほどぶりだろうか。
夜、玄関のドアが開く音に、今日子はキッチンから顔を出した。
「おかえりなさい、こうちゃん」
「ただいま」
声は低く、けれどどこか照れくさそうで。その響きだけで、今日子の胸が少しあたたかくなる。
「おなか、すいてる?」
「……ああ、もうペコペコ」
「今夜は、こうちゃんの好きなから揚げがあるよ」
そう言って微笑むと、浩司の表情がぱっと明るくなる。
「お、いいな。ビールもある?」
「もちろん。冷えてるよ」
ふたりのあいだに流れるのは、ほんの少し前まで感じられなかった、やわらかな空気。
「先、風呂入ってきてもいいか?」
「うん。汗だくだくだって顔してるもんね」
「一日中、動き回ってたからな。背中にホコリ積もってそう」
冗談まじりに言って、スーツのネクタイを緩める浩司の姿に、今日子はふと目を細める。
こうちゃんが、ちゃんと帰ってきた。言葉ではなく、その姿そのものが、今日子の心をそっと満たしていた。
通知がひとつ。
「今日子」から。
胸が詰まる。
昨日の“今日は帰りません”の言葉がずっと頭から離れず、気が気じゃなかった。指先が少し震えながら、メッセージを開く。
「チーズケーキ、見たよ。
こうちゃん……覚えててくれて、ありがとう。」
「やっぱり、今日子はこうちゃんがいないとダメみたいです。」
「夜、ちゃんと帰ってきてね?」
その瞬間、心の奥で何かがほどけたような気がした。
(……よかった……)
安堵と、じんわりとこみ上げる嬉しさで、スマホを持つ手が重くなる。
一瞬、目を細めた浩司の頬が、ゆるやかにほころぶ。
.......なんだよ、それ。
口には出さず、心の中で呟きながら、彼は画面を見つめたまましばらく動けなかった。
胸の奥が、じんわりと熱を帯びる。
仕事で張りつめていた神経が、ふとほどける。
あの今日子が、こんなふうに素直な言葉をくれるなんて.....まるで夢みたいだ。
今日子は、まだ“こうちゃん”って呼んでくれてる。まだ、自分のことを、必要としてくれてる。
今までだったら、照れ隠しに冗談めかして言っていたかもしれない。
それが今日は、まっすぐで、甘えていて、それでいてどこか寂しさをにじませている。
……今日子の中にいる“女”が、自分だけを求めている。
そのことに気づいた瞬間、浩司の中に、静かに燃えあがるものがあった。
自分しか知らない今日子の声、今日子の表情、今日子のぬくもり。
「俺だけのものだ」、そう思えることが、どれほど男にとって誇らしく、救いになるか。
言葉を選ぶのが下手な自分なりに、できるだけ素直な気持ちを込めて、返信を打つ。
「メッセージ、ありがとう。正直、ほっとした。昨日は……本当にごめんな。
サプライズも台無しにして、自己嫌悪でいっぱいだった。」
少し悩んで、続けた。
「麻里子さんと、楽しく過ごせたか?今日子が笑っててくれたら、それだけで救われる。」
「夜、ちゃんと帰る。今日子の顔、見たい。」
送信ボタンを押す。ようやく、“帰る場所”が見えてきた気がした。
ほんのりと上がった口元には、愛しさと覚悟がにじんでいた。
彼女の“ただいま”が、自分の“おかえり”になるように。
夜が来るのが、こんなにも待ち遠しいなんて、どれほどぶりだろうか。
夜、玄関のドアが開く音に、今日子はキッチンから顔を出した。
「おかえりなさい、こうちゃん」
「ただいま」
声は低く、けれどどこか照れくさそうで。その響きだけで、今日子の胸が少しあたたかくなる。
「おなか、すいてる?」
「……ああ、もうペコペコ」
「今夜は、こうちゃんの好きなから揚げがあるよ」
そう言って微笑むと、浩司の表情がぱっと明るくなる。
「お、いいな。ビールもある?」
「もちろん。冷えてるよ」
ふたりのあいだに流れるのは、ほんの少し前まで感じられなかった、やわらかな空気。
「先、風呂入ってきてもいいか?」
「うん。汗だくだくだって顔してるもんね」
「一日中、動き回ってたからな。背中にホコリ積もってそう」
冗談まじりに言って、スーツのネクタイを緩める浩司の姿に、今日子はふと目を細める。
こうちゃんが、ちゃんと帰ってきた。言葉ではなく、その姿そのものが、今日子の心をそっと満たしていた。