やさしく、恋が戻ってくる
夕食を終え、食器を下げる今日子の後ろ姿を、浩司はどこか名残惜しそうに見つめていた。
ふたりで食卓を囲んで、笑いながらから揚げを頬張る時間。
それがこんなにも、温かくて幸せなものだったなんて。忘れかけていた感覚だった。
「お風呂、借りるね」
「うん。のんびり入ってこいよ」
バスルームの扉が閉まり、湯の音が微かに聞こえてくる。浩司はグラスにビールをつぎ足し、ひとりで静かに晩酌を続けていた。
(今日子、笑ってたな……)
ぽつりと浮かぶ安堵。あのメッセージを見たときは、正直、心が折れそうだった。でも今、こうして隣で笑ってくれている。
それだけで.......もう、十分だった。
と、そのとき。
「こうちゃん」
バスルームの奥から、呼ぶ声がして振り向いた。
思わず、ごくりと喉を鳴らした。
そこに立っていたのは、見慣れたパジャマ姿ではなかった。
柔らかなローズベージュのシルクのナイトドレス。肩から胸元にかけて、繊細なレースが浮かぶように縫い込まれている。
濡れた髪をタオルで軽く巻いたまま、ほんのり火照った頬で、今日子が静かに立っていた。
「これ……麻里ちゃんに、もらったの。似合う、かな……?」
いつになく控えめな声。
でもその姿は、たしかに“女”としての今日子だった。母でもなく、妻でもなく、女として浩司の前にいる彼女。
浩司は言葉が出なかった。ただ、静かに、今日子の全身を見つめていた。
「……似合う、なんてレベルじゃない」
ようやく絞り出した声は、少しだけ掠れていた。
今日子が、ふっと微笑む。その瞬間、浩司の心に、ずっと押さえてきた感情が、静かに火を灯した。
そう言ったあと、浩司は立ち上がった。今日子は少しだけ戸惑いながらも、その場から動かずに立ち尽くしていた。
浩司のまなざしが、優しく、でもどこか切なげに揺れているのがわかる。
「今日子」
「……うん」
ゆっくりと距離が縮まり、気づけば腕の中にいた。その瞬間、心の奥がふっと緩む。
「……愛している」
耳元で囁かれた声が低く震えていた。ただの“囁き”じゃない。
この言葉には、何年分もの“触れられなかった想い”が込められていた。
今日子は小さく頷いて、浩司の背中にそっと手を回した。
「こうちゃん……」
それだけで、涙があふれそうになる。
次の瞬間、顔を上げた今日子の唇に、浩司の唇が重なった。
静かに、でも深く。時間を取り戻すような、ひとつひとつを確かめるようなキス。
離れていた距離が、肌と肌を通して、音もなく埋まっていく。今日子は目を閉じて、ただその感覚に身を委ねた。
(ああ、やっと……こうちゃんに、昔のように触れられてる)
その想いが、全身にじんわりと広がっていく。ただの夫婦じゃない。恋人のように、触れ合うふたりに戻っていた。
何度も唇を重ねるうちに、腕の力が強くなり、体温が高くなっていく。
けれど、今夜は焦らずに、ふたりで確かめながら、一歩ずつ、愛を重ねていけばいい。
ふたりで食卓を囲んで、笑いながらから揚げを頬張る時間。
それがこんなにも、温かくて幸せなものだったなんて。忘れかけていた感覚だった。
「お風呂、借りるね」
「うん。のんびり入ってこいよ」
バスルームの扉が閉まり、湯の音が微かに聞こえてくる。浩司はグラスにビールをつぎ足し、ひとりで静かに晩酌を続けていた。
(今日子、笑ってたな……)
ぽつりと浮かぶ安堵。あのメッセージを見たときは、正直、心が折れそうだった。でも今、こうして隣で笑ってくれている。
それだけで.......もう、十分だった。
と、そのとき。
「こうちゃん」
バスルームの奥から、呼ぶ声がして振り向いた。
思わず、ごくりと喉を鳴らした。
そこに立っていたのは、見慣れたパジャマ姿ではなかった。
柔らかなローズベージュのシルクのナイトドレス。肩から胸元にかけて、繊細なレースが浮かぶように縫い込まれている。
濡れた髪をタオルで軽く巻いたまま、ほんのり火照った頬で、今日子が静かに立っていた。
「これ……麻里ちゃんに、もらったの。似合う、かな……?」
いつになく控えめな声。
でもその姿は、たしかに“女”としての今日子だった。母でもなく、妻でもなく、女として浩司の前にいる彼女。
浩司は言葉が出なかった。ただ、静かに、今日子の全身を見つめていた。
「……似合う、なんてレベルじゃない」
ようやく絞り出した声は、少しだけ掠れていた。
今日子が、ふっと微笑む。その瞬間、浩司の心に、ずっと押さえてきた感情が、静かに火を灯した。
そう言ったあと、浩司は立ち上がった。今日子は少しだけ戸惑いながらも、その場から動かずに立ち尽くしていた。
浩司のまなざしが、優しく、でもどこか切なげに揺れているのがわかる。
「今日子」
「……うん」
ゆっくりと距離が縮まり、気づけば腕の中にいた。その瞬間、心の奥がふっと緩む。
「……愛している」
耳元で囁かれた声が低く震えていた。ただの“囁き”じゃない。
この言葉には、何年分もの“触れられなかった想い”が込められていた。
今日子は小さく頷いて、浩司の背中にそっと手を回した。
「こうちゃん……」
それだけで、涙があふれそうになる。
次の瞬間、顔を上げた今日子の唇に、浩司の唇が重なった。
静かに、でも深く。時間を取り戻すような、ひとつひとつを確かめるようなキス。
離れていた距離が、肌と肌を通して、音もなく埋まっていく。今日子は目を閉じて、ただその感覚に身を委ねた。
(ああ、やっと……こうちゃんに、昔のように触れられてる)
その想いが、全身にじんわりと広がっていく。ただの夫婦じゃない。恋人のように、触れ合うふたりに戻っていた。
何度も唇を重ねるうちに、腕の力が強くなり、体温が高くなっていく。
けれど、今夜は焦らずに、ふたりで確かめながら、一歩ずつ、愛を重ねていけばいい。