やさしく、恋が戻ってくる
新しい家に引っ越して、しばらく経ったころ。
風の通る午後、ウッドデッキのチェアでアイスティーを手にしていると、朱里からビデオ通話が入った。

スマホ越しに映る娘の笑顔は、寮生活にもすっかり馴染んで、少しだけ大人びて見えた。

「わあ、ほんとにできたんだね……夢のマイホーム」
「うん……ほんとに、ね」
今日子が微笑むと、朱里がいたずらっぽく目を細めた。

「ママ、泣いたでしょ?」
「え……」
「絶対泣いたと思ったんだよ。ほら、ママって感動すると、目、真っ赤になるから」

今日子は照れくさそうに笑って、頷いた。

「うん。いっぱい泣いたよ。でも、うれしい涙だった」

「よかったね、ママ」
朱里はにっこりと、心からの笑顔を浮かべた。
そしてふと、声のトーンを落として続けた。

「……実はね、私、知ってたんだ」

「え?」

「去年のママの誕生日、パパがこっそり教えてくれたの。“来年は、ママにプレゼントできそうだ”って」

「……そうだったの」

「“ママの夢だった家を、ママの知らないうちに準備してるんだ”って、嬉しそうに話してくれたんだよ。なんかね…
“ママのこと、ママが一歳の時から愛してるんだ”って、照れながら言ってて」

「……っ!」

今日子の胸が、ふいに熱くなった。

「びっくりしたよ、もう。なにそのドラマみたいなセリフ!って思ったけど……
でも、それを聞いて、あぁ……ママとパパって、ずっとお互いの人なんだなぁって思った」

画面の向こうで、朱里が優しく微笑む。

「わたしもいつか、そういう人に出会いたいな」
「……きっと、出会えるわ」
今日子は、今度は涙を見せずに、しっかりと言った。

「そのときは、ママがいちばんの味方になるからね」

その言葉に、朱里が小さく頷いた。

新しい家の風が、カーテンを揺らす。
光と風と、未来の約束に満ちた午後だった。
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