やさしく、恋が戻ってくる
エピローグ
夏の終わり、庭のトマトが初めて赤く実った。
ほんの少しの家庭菜園。
けれどその小さな実が、まるで私たちの再出発の証のようで、見つけた瞬間、思わず声を上げて笑ってしまった。
「ねぇ、こうちゃん。見て、やっとひとつ、赤くなったよ」
ウッドデッキ越しに声をかけると、単行本を読んでいた浩司が顔を上げて、にやりと笑った。
「お、収穫祭だな。ビール冷やすか?」
“こうちゃん”と呼ぶ声も、“今日子”と呼ばれる声も、
今はどちらも、私の中でやさしく響く。
あれ以来、
こうちゃんは、ときどきナイトドレスやワンピースをプレゼントしてくれるようになった。
照れくさそうに紙袋を差し出してきては、「……たまたま目に入ったから」とか「これ、似合うと思って」とか、
らしくない言い訳を並べる。
でも、私は知っている。そのひとつひとつが、私を“女”として大切にしてくれている証だということを。
箱を開けるたび、シルクやレースの柔らかさの向こうから、「愛しているよ」「綺麗だよ」という言葉が聞こえてくるようで、
胸の奥が静かに温かくなる。
かつては、愛されたいと思っていた。ただ、夫の目に女として映りたかった。
でも今は違う。
私は、ちゃんと愛されている。もう何かを証明しなくてもいい。
若くなくても、完璧じゃなくても、私はこの人にとって、たったひとりの“女”でいられる。
ナイトドレスに袖を通し、鏡に映る自分を見つめながら、私はそっと微笑んだ。
失っていたわけじゃない。ただ、置き去りにしていたものを、ようやく迎えにいけただけだった。
17歳のとき、あの人の手を取った。
41歳で、もう一度、同じ手を握りしめた。
そして私は、これからも
この手を、もう離さない。
“おかえり”も、“ただいま”も、
すべてこの家から始まる。
これから先、季節がいくつ巡っても、この庭と、このキッチンと、この寝室で。
私は女として、妻として、母として、そして何より、「私自身」として、生きていく。
ささやかで、豊かで、静かな愛の中で。
ほんの少しの家庭菜園。
けれどその小さな実が、まるで私たちの再出発の証のようで、見つけた瞬間、思わず声を上げて笑ってしまった。
「ねぇ、こうちゃん。見て、やっとひとつ、赤くなったよ」
ウッドデッキ越しに声をかけると、単行本を読んでいた浩司が顔を上げて、にやりと笑った。
「お、収穫祭だな。ビール冷やすか?」
“こうちゃん”と呼ぶ声も、“今日子”と呼ばれる声も、
今はどちらも、私の中でやさしく響く。
あれ以来、
こうちゃんは、ときどきナイトドレスやワンピースをプレゼントしてくれるようになった。
照れくさそうに紙袋を差し出してきては、「……たまたま目に入ったから」とか「これ、似合うと思って」とか、
らしくない言い訳を並べる。
でも、私は知っている。そのひとつひとつが、私を“女”として大切にしてくれている証だということを。
箱を開けるたび、シルクやレースの柔らかさの向こうから、「愛しているよ」「綺麗だよ」という言葉が聞こえてくるようで、
胸の奥が静かに温かくなる。
かつては、愛されたいと思っていた。ただ、夫の目に女として映りたかった。
でも今は違う。
私は、ちゃんと愛されている。もう何かを証明しなくてもいい。
若くなくても、完璧じゃなくても、私はこの人にとって、たったひとりの“女”でいられる。
ナイトドレスに袖を通し、鏡に映る自分を見つめながら、私はそっと微笑んだ。
失っていたわけじゃない。ただ、置き去りにしていたものを、ようやく迎えにいけただけだった。
17歳のとき、あの人の手を取った。
41歳で、もう一度、同じ手を握りしめた。
そして私は、これからも
この手を、もう離さない。
“おかえり”も、“ただいま”も、
すべてこの家から始まる。
これから先、季節がいくつ巡っても、この庭と、このキッチンと、この寝室で。
私は女として、妻として、母として、そして何より、「私自身」として、生きていく。
ささやかで、豊かで、静かな愛の中で。