やさしく、恋が戻ってくる

はじまりの記憶

今日子が初めて浩司に出会ったのは、まだ1歳のときだった。
もちろん今日子自身には記憶はない。けれど、浩司は今でもその瞬間をはっきり覚えている。

真夏の暑い日、隣の家に引っ越してきたばかりの赤ん坊を、
母が「ちょっと抱いてみる?」と無理やり腕にのせてきた。

「え、無理だって……」と戸惑いながらも、当時6歳だった浩司は、小さな身体をそっと腕に受け止めた。

そのとき、今日子はにっこり笑ったのだという。

「なあ、おまえ、あのとき笑ったんだぞ」
そう浩司は、結婚して何年も経ったあとにも、よく言っていた。

“あの瞬間から、もう俺は今日子に弱かったんだ”
なんて、不器用な照れ隠し混じりに。

そして今、その笑顔に、もう一度ふれるように。
この夜、浩司は、眠る今日子の髪にそっと手を添えた。
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