野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)
明石(あかし)姫君(ひめぎみ)裳着(もぎ)入内(じゅだい)のご準備の間も、若君(わかぎみ)はぼんやりと物思いの日々を送っていらっしゃった。
(われ)ながら強情(ごうじょう)すぎるのかもしれない。内大臣(ないだいじん)様は許してやってもよいというところまでお気弱(きよわ)になっておられるらしいから、今お願いすれば結婚をお許しいただけるだろう。しかしここまで()えたのだから、あちらから申し込んでいらっしゃるのを待ちたいではないか>

若君がそう苦しくお悩みになっているころ、雲居(くもい)(かり)(なげ)いていらっしゃった。
父君(ちちぎみ)がおっしゃったとおり、本当に中務(なかつかさ)(みや)様の婿君(むこぎみ)におなりになったら、私のことなどすっかり忘れてしまわれるだろう>
それぞれ悩んでいらっしゃるのだけれど、実のところ思いは深く通じ合っておられるのよね。

内大臣様は後悔なさっている。
<私が意地(いじ)を張りつづけても姫は幸せから遠ざかるばかりだろう。源氏(げんじ)(きみ)と中務の宮様が縁談(えんだん)を完全に決めてしまわれたら、姫の結婚相手を一から探さなければならない。そのあたりの事情が婿君の耳に入らないわけはないから気の毒であるし、こちらも世間から笑われることになる。新婚夫婦の仲がぎくしゃくするのではないか。私の失敗だと世間から非難(ひなん)されるだろう。やはりここはこちらから頭を下げた方がよい>
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