野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)
内大臣(ないだいじん)様と若君(わかぎみ)は表面上は問題のない伯父(おじ)(おい)でいらっしゃるけれど、姫君(ひめぎみ)のことで(うら)みがとけない仲になってしまわれている。
<突然やさしいことを言うのもどうだろう。今まで結婚を許さなかったのに、急に手のひらを返しておおげさに婿(むこ)(あつか)いしたら、世間が笑うのではないか。何かちょうどよいきっかけがあればよいのだが>

三月は大宮(おおみや)様のご命日(めいにち)があって、お寺で法要(ほうよう)が行われた。
内大臣様がご子息たちを引き連れなさったご威勢(いせい)はすばらしく、上級貴族たちもたくさん参列していらっしゃる。
若君も大宮様の孫としてお越しになっていて、ご立派な方たちに混ざってもまったく(おと)っていらっしゃらない。
器量(きりょう)は十八歳のお美しい(さか)りで、ご態度もご学問もすばらしいの。
しかも恋の障害である内大臣様が行うご法要ということで、とくに念入りに身支度(みじたく)して、いつも以上に落ち着いた振舞いを心がけておられる。

内大臣様はじっとご覧になる。
源氏(げんじ)(きみ)は参列なさっていないけれど、お布施(ふせ)を出してお(きょう)の手配をしていらっしゃった。
若君はあれこれと働いてご法要のお手伝いをなさっている。
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