あのね、先生

episode11. カフェラテに溶ける夜☕️


——先生に「カフェに行こうか」と誘われた。


驚いた勢いで、「はい……!」と返してしまう。
気づけば、先ほどまで止まらなかった涙が嘘のように引っ込んでいた。

***

カフェに着き、レジ前に置いてあるメニュー表を二人で覗き込む。
並んで見ているだけなのに、それだけで心がどこか落ち着かない。


この店員さんからは私たちが恋人同士に見えてたりするのかな?

そんな風に見えていたらいいな……


なんて一瞬、考えてしまう。


「何がいい?」


こちらを振り向く先生に
私は、「カフェラテにします……」と言った。


本当は、看板商品の”クラシカルプリン”も気になっていた。

けど……

私だけプリンまで頼んで、
ガッツリ食べる女だとか空気読めないとか思われても嫌だし……

諦めた。


「カフェラテとホットコーヒー……あと、このプリンも二つください」


えっ。


思わず先生を見る。
それは、私が食べたいと思ってたプリンだった。


「以上ですね。では、お会計は——」


財布を取り出そうとすると、先生が軽く手を伸ばす。


「払うからいいよ」

「でも、私の分だけでも払います!」

「これくらい奢らせて」


先生は、私に払わせてくれなかった。


私が公園で泣たから、きっと気を遣ってくれているんだ……

やっぱり、先生は優しい。


そのまま、席につく。
先生とこうやって、教室以外で向き合って座るのは、なんだか新鮮で緊張した。

ほどなくして注文したものが運ばれてくる。


「……どうぞ?」


固まる私に、先生が小さく笑った。


「い、いただきます」


少しだけ震える手で、カフェラテを一口飲む。

口に入れた瞬間、ミルクの優しい甘さとともに、
ビターなエスプレッソがじわっと心の奥まで染み込んでいく。


「美味しい……」


先生に奢ってもらったカフェラテは、
何倍も美味しく感じた。

カップを置き、プリンのお皿に手を伸ばしたとき、ふと気づく。


……そういえば私。
先生に借りたハンカチ、まだ返していない。


バッグからそっと取り出す。


「あの、さっきのハンカチ……ありがとうございました」

「もう平気なの?」

「大丈夫です……」


受け取りながら冗談っぽく言う先生に、小さく答えた。
すると、その視線が下へ落ちる。


「……それ」

「えっ?」


視線を辿ると、
バッグの端で眠たげウサギが静かに揺れていた。


「まだ、持っててくれたんだ」


先生が微笑む。


「あっ……これ、すごく気に入ってて……」


そう答える私を、
先生は優しい目で見つめていた。


「そっか。……なんか、嬉しいな」


そう言うと、先生は
ブラックコーヒーを一口飲んだ。


——あれ?

先生、さっきからコーヒーばっかりで、
プリンに全然手をつけてない。

もしかして……?


運ばれてきた時から変わらない形のプリンを見て、
ふとそんな考えが過ぎる。


私は、さりげなく聞いた。


「……そういえば、どうしてプリンも頼んでくれたんですか?」

「だって、欲しそうにしてたから」


さらっと言って、コーヒーに口をつける。
そのストレートな返しに、心臓がドキッと跳ねた。


ちょっと見てただけなのに……
まさか、私そんなに欲しそうな顔してた!?


その時ふと思う。


——先生って、意外と私のこと、見ている……?


「先生は……私が欲しそうにしてるって、見てわかるですね」


思い切ってそう聞くと、
コーヒーカップを置く先生がまっすぐ私を捉えた。



「わかるよ」



その言葉にも、視線にも、迷いがないように見えた。


——やっぱり、ちゃんと見ている。


「まぁ、もし食べなかったとしても俺が2つ食べるだけだから」

「!!」


その笑顔で言う冗談は、反則だと思った。


「ほら、早く食べないとそのプリンも俺が食べちゃうよ?」

「た、食べる……!」


この胸のドキドキを沈めるように
プリンを口に運ぶ。


先生も、ようやく自分のプリンに
スプーンを伸ばした。

***

スマホの時計は、
もう午後7時をまわろうとしている。

そろそろ帰る時間だとわかりながらも、
私はスマホの画面を伏せた。


その時、スプーンを置いた先生が、
「公園の……」とぽつりと口を開く。


「軽はずみな発言だったよな。申し訳ない」


その表情に、いつもの余裕は見えず、
私が思っていたより、ずっと弱く見えた。


「いえ、私こそ急に泣いて……すみません」


なんて。
謝るだけじゃ、ダメだよね。


……でも。


先生のその表情を見たら、
本当の気持ちをぶつけてしまっていいのか、

わからなくなる。


ちゃんと、理由を伝えないと。
そう思うのに、声が出ない。


——それでも。


何も知ってもらえないまま、誤解されたまま、
終わるのは嫌だった。



いま、言わないと。



「あの時——」



私は、静かに打ち明けた。


ーーー







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