あのね、先生
episode12. 気づいた気持ち✨
どうしても伝えたかった。
私が泣いた理由、そして、10年前のあの頃のことを——
カフェに流れる静かな空間が、
余計に鼓動を速くさせる。
「あの時」
そう切り出すと、プリンを食べていた先生は
一度リセットするようにコーヒーを流し込んだ。
「先生が公園で私に『寂しかった?』って 聞いた時、昔のことを思い出していました」
先生は何も言わない。
けれど、まっすぐとこちらを見ている。
「……まだ、私が高校生だった頃、先生が塾を辞めて”もう会えないんだ”って思う度、勝手に落ち込んで、悲しくなって」
「うん」
「でも、先生には先生の道があるから、”会えないのは仕方のないことなんだ”って何度も自分に言い聞かせて——」
一瞬、言葉が詰まる。
「いつか思い出と一緒に、その気持ちも忘れられたらいいなって、思っていました」
人に、こんなことを言うのは初めてだった。
その初めてが、まさか本人にだなんて思ってもいなかったし、
どう思われるのか少しだけ怖かった。
あの頃の記憶は、
少しだけ苦くて、切なくて、
そしてあまりにも………
私の中で輝いていたから。
「……なのに先生と現在、こんな形で再会して——忘れたはずの気持ちが、あの頃の思い出とともに蘇ってきたんです」
そう口にした瞬間、”現在”の思い出が、
パラパラと本のページをめくるように脳裏に浮かんだ。
春の再会も、
夏の花火も、
射的で取ってくれた眠たげウサギも、
今日、先生と見た紅葉も、香りも——
いつだって先生は、
忘れようとしていた記憶を、気持ちを、
私に思い出させる。
まるでモノクロだった思い出が、
少しずつ鮮明に色付いていくように。
先生は、コーヒーカップに視線を落としたままだった。
けれどその指先に、わずかに力が入る。
「同時に、先生はあの頃、私のことをどう思ってたのか……すごく気になって」
その時、視線がゆっくりと上がる。
「三崎さ——」
「私はあの時」
言いかけた言葉が、途中で止まる。
でも、ここで言わないと。
「先生のことが好きだったんです」
——それは、今も変わらない。
でもそのことは、本人を目の前にして言えなかった。
「先生はあの頃、私のことなんてなんとも思ってなかったと思うけど……」
口にするのは怖かった。けど、それ以上に。
こんなにも伝える機会があるのに、
言えずにずっと”未消化のまま”は嫌だと思った。
先生が、静かに言う。
「あの頃から泣かせていたのか……ごめん」
その声は、
どこか悔しさを含んでいるようにも聞こえた。
「……でも、そうか。わかったよ」
先生は、少しだけ顔を上げて言った。
「10年前のあの日も、今の自分の気持ちも——少しずつわかる気がする」
——その言葉の奥には、何が隠されているのか。
私はただ、静かに先生の続きを待っていた。
ーーー