あのね、先生

episode23. 足音👞


美沙さんとの食事を終え、イタリアンのお店を出ると、
外は思っていた以上に冷え込んでいた。


「じゃあね、柚葉! 気をつけて帰ってね〜」

「はい、美沙さんもお気をつけて。ありがとうございました」


店の前で美沙さんと別れ、
私は人気の少ない道を歩き出した。


先生の不在。食美沙さんから聞いた『篠宮さん』の名前。
そして——ポストに入っていた、あの不気味な黒い手紙。


静寂に満ちた夜道で、一気にそれらが頭の中に巡る。


『——気づいてるよね?』



一人になると、あの便箋の一行が脳裏に浮かび、
急に誰かに見られているような不安が襲った。



「寒っ……」



冷たい冬の風が肌を刺し、

次第に細かい雪がちらつき始める。



やば、傘ないし早く帰らないと……


自分の足音だけが響く暗い路地。
私は足早に先を急いだ。



その時。




……ザッ、ザッ。



背後から私の歩調に合わせるような
靴音が聞こえ、心臓が跳ねる。


勇気を出して振り返っても、そこには誰もいない。
ただ、雪が混じる暗い夜道が広がるだけ。



「………」



気のせい。疲れてるのかもしれない。

私は再び前を向き歩き出した。



でも——。



ザッ、ザッ、ザッ……



間違いなく誰かの”足音”が、近づいていた。



心臓がバクバクと音を立てる。

私はさらに足を早めた。



けれど、背後からの足音も
同じ速度で近づいてくる。





気のせいじゃない。これは誰かに——



”つけられている”。




「——ねえ」




その瞬間、背後から聞こえた
男とも女ともつかないような声に、

胸が恐怖心で埋め尽くされた。




「——いやっ!!」



私はバッグを握りしめて無我夢中に走り出した。

ヒールの音がアスファルトに響く。


同時に追いかけてくる気配がして——



怖い、怖い、怖い!!!



泣きそうになりながら、息を白くして、

雪の降る冷たい夜道を走り続けた。


視界がぼやけていく中、

遠くに見える大通りの明かりだけを頼りにただひたすらに走った。


走る度ヒールがかかとに擦れて、

舞い落ちる雪が冷え切った身体に刺さる。


恐怖と痛さと冷たさで。




もう嫌…………!




顔を上げることもせず、
パニックのまま大通りの角へ飛び出した時だった。



——ドンッ。




ーーー
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