あのね、先生
episode25. 黒の対峙🔫
——あの夜。
私は温かい腕の中で落ち着きを取り戻した。
先生は、警察にも話すと言ってくれたが、
私は「事を大きくしたくない」と首を横に振った。
そんな私の意を汲んで、先生もそれ以上は無理強いせず
「……わかった。けどまた何かあったらすぐに言って」
と私に言ってくれた。
その数日後。
スクールでいつも通り授業を終えた私は、
休憩室に立ち寄った。
入り口に差し掛かった時、私は思わず足を止めた。
——そこには、彼女の姿があった。
華やかな巻き髪、ハイブランドのバッグ。
コーヒーを片手にし優雅に飲んでいるのは……
紛れもなく篠宮さんだ。
彼女は私に気づくと、目を合わせたまま
真っ赤な口紅を吊り上げるようにして笑った。
「なーに? 三崎さん。……恭介さんに助けてもらって、気分はお姫様かしら」
最初から敵意剥き出しのような
威圧的な態度に、私は息を呑む。
篠宮さんは、私の名前を知っていた。
しかも、あの夜のことを知ってるような言いぶりで。
「……なんで、私のこと……」
「なんでって、あなたのことをずっとここで待ってたのよ。むしろ、時間を使ってここまであなたに会いに来た私に、礼の一つくらいあったっていいんじゃない?」
その瞬間、嫌な予感がして胸がざわついた。
「気になるんでしょ?恭介さんのこと」
彼女は立ち上がると、
ゆっくりと距離を詰めるように私に近づいた。
ヒールの音が室内に響き、香水のきつい匂いが鼻をつく。
「彼は今、私のためにあの校舎で働いてるの。いい加減わからない?……彼にとって、あなたはただの、手のかかる『お荷物』だって」
「……え?」
彼女は私の前で立ち止まると、鋭い視線を私に向けた。
「——10年も前から好きって、いつまで追いかけるつもり?」
その言葉が胸に強く突き刺さる。
なんでそんなこと、知って………
「正直キモすぎだし、所詮、『先生と生徒』なんだよ。 あなたはそのつもりでも……先生からしたら恋愛対象にすらならないよ?」
私は突きつけられた現実に、何も言い返せなかった。
そして最後に彼女は、私を冷たく見下ろすとこう言い放った。
「目障りなんだよ」
呆然と立ち尽くす私の横を通り過ぎていった彼女の、
ヒールの音だけがコツコツと廊下に鳴り響く。
——お荷物。目障り。
その瞬間、自分の中の何かが、
音を立てて崩れていくようだった。
ーーー