あのね、先生

episode8. 知りたい気持ち💡


——美沙さんが、私を食事に誘ってくれた。


思ってもいなかったその一言に

胸の奥がふわりと揺れた。


***

レストランに着いた私たちは
注文を済ませて、料理を待っているところだった。


「ふぅー、疲れた」


水を飲み干し、グラスを”ガタンッ”と置いた
美沙さんが、じっと私を見る。


「あなた、柚葉だっけ?」



……まさか、いきなり説教!?



身構えるように
「はい……」と小さく返事をした。



「この前、スクールであった夏イベント、柚葉行った?」



……え。


予想外すぎて、拍子抜けする。



「……行きました」



同時に、あの日のことが脳裏に浮かんだ。


それは、


あの花火大会の夜の
淡くて胸の奥に残る記憶——。



「いいな〜!海、どうだった?楽しかった?」



美沙さんのその弾んだ声で、
ふと我に返る。


「はい、楽しかったです……」

「そっかぁ。あたし仕事で行けなかったんだよね」


笑いながら美沙さんが続ける。


「あっ、でもね!その夜にあった花火大会だけは見れてさ〜」

「美沙さんも見てたんですか!?」


言った瞬間に気づく。


しまった!
美沙さん”も”って……!


「え、柚葉も来てたの?」

「あっ……スクールの人と……」


言葉に詰まり、
美沙さんから視線を逸らす。


”スクールの人”というのは嘘ではない。
でも、”先生と二人で”なんて、言えなかった。


「ふーん……」


ちょうどその時、料理が運ばれてきた。
そして、会話は自然と別の話題に移った。



……助かった。



そう思ったのも束の間。



「え、何それ可愛い」



そう言って美沙さんが指さしたのは、
私のバッグについていたキーホルダー。


それは先生からもらった、”眠たげウサギ”だった。


「あ、これは——」

「ウサギ? てか、これ柚葉に似てない?」

「えっ!?」

「なんかこの……”とろんとした目”とか」

「そんな、美沙さんまで……! 私そんなに授業中、眠たそうにしてますか!?」

「えっと、眠たそうっていうか……うっとり?」


そう言いながら、美沙さんが首を傾げた。


「”授業中”って?」


無意識に出た自分の言葉に、
逆に問い返されて、凍りつく。


や、やばい……!

授業中なんて、美沙さん一言も言ってないのに!!



「……先生に、そう言われたの?」



そう聞かれた瞬間——



”たまにぼーっとしてるとき、こんな顔してるよ”



あの夜の声が(よみがえ)った。


急に頬がぽっと熱くなる。



「まさか、花火大会……先生と?」



図星でしかない問いかけに、目が泳ぐ。


「いや、あの……先生が優しいだけというか、私に合わせてくれただけというか……」

「合わせてくれた!?」

「いや、その!合わせてくれたというか、たまたま意気投合したというか……!?」

「意気投合!?」

「へっ!?」


もう自分でも何を言ってるか
わからないくらい動揺していて


これ以上、誤魔化せないと悟った。


***


「なるほどね〜? じゃあそのウサギは、先生にもらったもの?」

「はい……」


観念した私は、小さく頷いた。


「えっ、マジー!?めっちゃ青春じゃん〜〜!」


さっきまでの落ち着いた雰囲気が嘘のように、
興奮気味に私の肩を大きく揺らす。


「で、それで?」

「……それで?」

「進展、何かあった?」


美沙さんが目をきらきらと輝かせる。


「な、何もないですよ!」

「ほら、手繋いだとか!」

「えっ!? つ、繋いでないですよ!?」(※先生の手を掴んだ人)


「勢いで『好きです♡』って告白したとか!」


「なっ、ないですよ!?」 (※勢いで言おうとしていた人)


美沙さんの猛攻を
必死にかわしながら答えると、

ようやく引き下がるように
美沙さんは背もたれへもたれかかった。


「ま、漫画みたいにそう簡単にはいかないか」

「そうですよ……」


やっと話が終わった……


ほっとして、グラスの水を口に運ぶ。

そして、飲み込もうとした瞬間——
美沙さんがにやりと笑った。


「……ってことは、やっぱり好きなんだ?」


思わずむせる。


「あっ、ごめんごめん」


軽い声でそう言うと、
美沙さんが少しだけ真顔になった。


「……でも、見てたらわかるよ」

「え……?」

「だって柚葉、先生と話してる時、緊張してるし……話しかけられる時も嬉しそうだしね」


私、そんなに顔に出てるの……?

じゃあ、先生にも——?


そう思った途端、また顔が熱くなる。


「普段からきっと、そんな感じなんですね、私……」


(うつむ)きながら、呟くと
美沙さんが吹き出すように笑った。



「でも先生って、鈍感じゃん?」



その言葉に自然と顔を上げる。



——え?



美沙さんが続ける。



「だから、柚葉のバレバレな行動も、先生は気づいてないかもね?」



そうなんだ……。良かった。

——いや、良かったのかな。



そう思うのと同時に、



どうして、そんなに先生のことがわかるんだろう。




美沙さんは、

”ただの” 生徒なんだろうか———




いま、目の前にいる彼女に対して

そんな疑問が私の中に


広がっていた。


ーーー
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