響け!猛毒のグラーヴェ
「アントーニョ、思い出してほしい。エミリー嬢は私たちと会った時、腕時計をしていたね。腕時計はどっちの腕につけられていた?」

「確か左だ」

「そう。腕時計は利き手と反対側につけるのが一般的。さらに、エミリー嬢はナイフやフォークも右で使っていた。つまり、彼女は右利きということになる」

リズが絵を示しながら続けた。

「この絵の人物は右を向いています。右利きの人物が肖像画などを描くと、左向きになることが多いんです。左利きは右向きが多いと言われています。顔の輪郭が右に膨らんでいる方が描きやすいそうです。あとは斜線の描き方や塗り方も右利きと左利きでは違うんです」

「この絵を描いたのは左利きの人物。よって、この絵が偽物というわけだよ」

レオンハルトが締め括るとカナタが拍手を送る。マーガレットは「絵について知識がないって言っておきながら、めちゃくちゃ詳しいじゃない」と呆れた様子で言う。レオンハルトは笑いながら言った。

「いや、答えを見つけられたのは探偵セドリックのおかげだよ。セドリックの話の中で、偽物の絵を見破ったり、何の変哲もない果物が一定の人には毒になることが書いてあったからね」

「セドリック……」

リズが目を大きく見開く。その手は微かに震えていたものの、誰も気付かなかった。

しかし、街路樹の陰からレオンハルトたちを観察していた人物はそれを見逃さなかった。それはジョセフ・ファスベンダーである。
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