ポーカーフェイスの二人は相思相愛で甘々で

1★


夜の図書館。

ページをめくる音すら響かないほど、ふたりの世界は閉じていた。

湯田中蓮は本を読むふりをしながら、ちらちらと隣の田澤雪乃を盗み見る。

雪乃は無表情で、産婦人科の論文をじっと見つめている。けれど、その耳の先がわずかに赤い。

「雪乃。」

「……なに。」

低い声。表情は変わらない。でも目だけが、蓮を捉えて離さない。

「さっきから、雪乃の指先が俺の方に寄ってきてる。」

「……蓮が先に膝を当ててくるから。」

「雪乃が近いんだろ。」

「……じゃあ離れれば?」

「離れない。」

ふたりの視線が絡み、静かな空気がぴりりと甘く張りつめる。机の下、指先同士がきゅっと強く絡んだ。

「今日、うち来る?」

「行く。……帰り急ごう。」

周りには勉強に必死な学生たちがいるのに、ふたりの世界だけは熱を帯びていた。



雪乃の部屋。

蓮は部屋に入るなり、ドアを閉める音もそっと優しくした。

雪乃がコップに水を注ごうとすると、背後から蓮が抱きしめる。雪乃の体がぴくりと震えた。

「ねえ、まだ何もしてないのに……心臓、速い。」

「蓮がくっつくから。」

「おれが我慢してたの、知ってるくせに。」

雪乃は蓮の腕の中で、顔を上げる。真顔だけど、その瞳はとろんと濡れている。

「……蓮、好き。」

「おれも。」

蓮が頬を撫で、雪乃の唇にそっと口づける。短く、軽く。それだけで雪乃の息がひらりと揺れる。

「雪乃……声、もっと聞きたい。」

「……やだ。」

「なんで。」

「恥ずかしいから。」

「おれだけの声、聞かせて。」

蓮が唇を落とし、首筋にゆっくり吸い痕をつけた。雪乃は無表情のまま、でも小さく肩を揺らす。

「……やめてって言っても、やめないくせに。」

「雪乃がかわいいから、無理。」

「……ばか。」

言葉とは裏腹に、雪乃の指先は蓮の髪をそっと梳いている。

二人は視線を合わせたまま、ゆっくりとキスを深くする。唇が離れるたび、糸を引くように甘い息が重なる。

「蓮の全部、ほしい。」

「おれも。雪乃しかいらない。」

雪乃はベッドに押し倒される。白いシーツに、さらりと髪が広がった。

その瞳はまだ無表情のままなのに、微かに上気して、光を宿している。

「蓮……好き。ずっと一緒にいて。」

「ずっとそばにいる。雪乃を離さない。」

二人の世界は、夜の深さの中でさらに甘く、熱を帯びて溶けていった。

誰も入れない、ふたりだけの、完璧で甘々な静寂。

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