ポーカーフェイスの二人は相思相愛で甘々で

2★


湯田中蓮はいつものように教科書を開き、静かに席に座っていた。

その日、隣の席がそっと埋まった。

白衣の袖を丁寧にまくり、真剣な眼差しを教壇に向ける長い黒髪の女性。

田澤雪乃。

講義が始まって30分ほど経った頃、雪乃はふいに蓮の方を向いた。無表情のまま、低い声を落とす。

「……ここ、なんでこうなるの。」

蓮は視線を下げると、雪乃が指差すノートを覗き込む。

「ホルモンの作用。視床下部が刺激されるから、ここでホルモン分泌のスイッチ入る。」

「……視床下部。」

「大事。」

「うん……ありがとう。」

雪乃は真顔のまま、小さく一度だけ瞬きをした。その仕草がやけに可愛く見えた。

「……名前、何?」

「湯田中蓮。」

「田澤雪乃。」

そのときチャイムが鳴り、講義が終わった。蓮は鞄を閉じかけた手を止める。

「雪乃。」

「ん。」

「さっきの続き、話す?」

「……話す。どこで?」

「おれんち。」

「行く。」

無表情なまま頷く雪乃を見て、蓮は胸の奥が妙に熱くなるのを感じた。



蓮の部屋。今日は家族が誰もいない。

雪乃は教科書を抱えたまま部屋に入ると、きょろきょろと見渡した。

「本だらけ。」

「勉強するから。」

「……ここで話す?」

「うん。……でも、雪乃見てたら話どころじゃなくなった。」

蓮が少しだけ息を詰める。雪乃は無表情のまま、蓮をじっと見上げた。

「……どうして。」

「さっきから、ずっと可愛くて我慢できない。」

「……蓮。」

雪乃は蓮の白衣を指先でつまむ。

「蓮も、かっこいいって思ってた。」

その一言で、ふたりの距離は一気にゼロになる。唇がそっと重なり、蓮の腕が雪乃を抱きしめる。

「もっと、触れていい?」

「うん。」

ベッドの上、無表情のまま、雪乃が蓮のシャツのボタンをひとつずつ外していく。指先が震えていた。

「緊張してる?」

「……してる。初めてだから。」

「大丈夫。優しくする。」

雪乃の瞳が少し潤む。頬に赤みが差して、でも声はかすかに震えていた。

「蓮が初めてでよかった。」

「おれも。雪乃以外いらない。」

その夜、ふたりは初めて肌を重ねた。

ポーカーフェイス同士のはずなのに、何度も名前を呼び合い、優しい吐息が部屋を満たしていく。

身体を重ねるたび、無表情の奥に溢れ出す愛しさと熱が止まらなかった。

こうして、静かで完璧なふたりの、甘い物語が始まったのだった。
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