ドジっ子令嬢は着ぐるみうさぎに恋をする
嗚咽をこらえきれず泣いていると、
ふいにポンポンと優しく頭に触れる感触。

えっ……? 

驚いて顔を上げた瞬間、視界に飛び込んできたのは、ウィルの大きなモフモフの手。その片方が私の手のひらに柔らかくティッシュを押し込み、もう片方が頬の涙を拭う。

うそ、デジャヴ?

驚くほど優しく、子どもをあやすみたいに頭をぽんぽんと撫でてくる。
――2年前の光景が一気に蘇った。

あの時も私は、絶望のどん底にいて。
泣き崩れた私を、ウィルがそっと抱きしめてくれた。あの温もりが、私を立ち上がらせてくれた。『私も誰かを笑顔にしたい』そう思わせてくれた。

でも、もう終わりなんだよ。
だって私は、あれから何も変われなかったから。

涙が止まらない私の前で、ウィルは大きな腕をゆっくりと広げる。まるで『おいで』と言うように。

動けない私に近づき、壊れ物みたいに。
でも確かな力で抱きしめてくれた。
その瞬間、我慢していた声があふれ出す。
涙と一緒に、胸の奥でくすぶっていた黒い感情が溶けていく。

モフモフの温もりが、凍りついていた体にゆっくり感覚を戻していく。暗い心に、一筋の光が差し込む。

今夜の三日月みたいに。

着ぐるみ越しでもわかる、逞しい骨格と筋肉。

あっ、間違いない。あの日のウィルだ。
やっと、また会えたんだ。


「大好きだよ、ウィル。あの時も、今も」


あっ。言っちゃった。
心の中で留めておくはずの言葉が、唇から零れ落ちる。

モフモフの腕がわずかに動きを止め、抱きしめる力が少し強くなる。

気のせい? それとも。

頭上から落ちてきたのは、低くて優しい声。


「……大丈夫だ」


えっ?
胸の奥がドクンと跳ねる。声を出すはずのないウィル。けれど、今の響きは確かに知っている声。

思わず息を詰め、下を向いたまま体がかすかに震える。

そのとき、夜風に混じってふわりと漂ってきた。柑橘系の爽やかさと、雨上がりの森を思わせる深い香り。

あっ、知ってる。
この香り。
廊下ですれ違った時も、資料を受け取った時も。そして二年前、泣き崩れた私を抱きしめてくれた“あの日のウィル”からも漂っていた香り。


……霧島チーフのコロンの香り。


胸がひときわ強く震えた。

もう間違いない。
二年前も今も、私を守ってくれているのは……

彼。


THE END



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