俺様な忠犬くんはご主人様にひたすら恋をする

5

翌週の水曜日、佐久間さんからお誘いの連絡がきた。

「金曜日、少し早く上がれそう。よかったらまた、ご飯でもどう?」

私は迷わず「行きたいです」と返事をした。

“ちゃんと向き合いたい”と思った。
前の恋にいつまでも引きずられていたくない。
傷ついたふりをして、誰かの優しさを逃げ道にしたくない。

佐久間さんといる時間は、穏やかで、落ち着いていて──
なにより、安心できた。



金曜日の夜。
前回とは違う、ちょっと背伸びしたフレンチのコース。

佐久間さんは変わらず穏やかで、何度も私の笑いを引き出してくれた。

ワインが進み、少しずつ頬が温かくなっていく。

「月岡さんって、ワイン飲むと少しだけ頬が赤くなるんだね」

そんな何気ない一言に、私は笑って頷いた。

「自分では気づかないけど……そうみたいですね」

「……可愛いと思った」

フォークを持った手が、一瞬止まる。

それでも私は、ちゃんと向き合いたかった。
逃げないって、決めたのだから。

「佐久間さん」

「ん?」

「私……佐久間さんと過ごす時間、心地いいです」

一歩ずつでも、前に進める気がした。
自分の中に、過去を置いてきたと思っていたから。
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