俺様な忠犬くんはご主人様にひたすら恋をする
13
藤堂side
──温泉旅館。
あいつが、男と来てると聞いて、胸がざらついた。
俺は冷静なふりをしていたけれど、たぶん誰が見ても目が据わっていたと思う。
だが、皮肉なことに、ここに来たのは仕事のためだった。
佐久間大和──営業部の中堅社員。
あいつが担当していたクライアントの数字に、大きな齟齬が見つかった。
それを上に報告したのも、俺だった。
そして、上層部の判断は「現地確認と再構成」。
任されたのは、俺。
もちろん、他にも人材はいた。
けれど俺は自らここに来ると申し出た。
数字の修正なんて、リモートで片付けられるレベルの問題じゃない。
…それに、月岡瑞希がここにいる。
偶然を装う、という言い訳は、自分の中でももう通用しなかった。
旅館の帳場で名乗ると、案内されたのはコワーキングスペースだった。
佐久間は顔色を変え、青ざめた表情で俺を見た。
「藤堂さん……すみません、すぐに修正にかかります」
「遅いな。状況整理にどれだけ時間かかってるんだ」
「……はい、すみません」
社歴は浅いが、自分より年上。それなのに、立場は自分が上であることを自覚した。
一通り、数字の見直しと提出スケジュールの確認を済ませた。
佐久間が、思い切ったように口を開いた。
「……あの、藤堂さん。さっきから気になってたんですけど……瑞希ちゃんとは、どういう──」
バチン、と何かが切れた音がしたのは、自分の中だった。
瑞希ちゃん?
誰がそんなふうに呼んでいいと許した?
俺は顔に出さなかった。
だけど、その言葉の甘さに、腹の底から怒りがわいていた。
「……おまえな、今は“瑞希”のことじゃなくて、仕事だろ」
声は低く、冷ややかに。
“月岡さん”でも“彼女”でもない。
あえて、呼び捨てにした。
自分でも驚くほど自然に、その名前を口にしていた。
佐久間は一瞬、はっとした顔をして、すぐに黙り込んだ。
「とにかく、明日の朝までに仕上げろ。フォローはする」
立ち上がると、頭に血がのぼっているのがわかった。
くそ……俺は、なにをしに来たんだ。
“仕事”だろ?
そう思うのに、脳裏に浮かぶのは、今この瞬間、佐久間の隣にいる瑞希の姿だった。
もう瑞希の部屋には戻らせたくなかった。
“指導”という名の、俺の嫉妬。
彼女にキスマークを残した夜の感触が、まだ指先に残っている
──温泉旅館。
あいつが、男と来てると聞いて、胸がざらついた。
俺は冷静なふりをしていたけれど、たぶん誰が見ても目が据わっていたと思う。
だが、皮肉なことに、ここに来たのは仕事のためだった。
佐久間大和──営業部の中堅社員。
あいつが担当していたクライアントの数字に、大きな齟齬が見つかった。
それを上に報告したのも、俺だった。
そして、上層部の判断は「現地確認と再構成」。
任されたのは、俺。
もちろん、他にも人材はいた。
けれど俺は自らここに来ると申し出た。
数字の修正なんて、リモートで片付けられるレベルの問題じゃない。
…それに、月岡瑞希がここにいる。
偶然を装う、という言い訳は、自分の中でももう通用しなかった。
旅館の帳場で名乗ると、案内されたのはコワーキングスペースだった。
佐久間は顔色を変え、青ざめた表情で俺を見た。
「藤堂さん……すみません、すぐに修正にかかります」
「遅いな。状況整理にどれだけ時間かかってるんだ」
「……はい、すみません」
社歴は浅いが、自分より年上。それなのに、立場は自分が上であることを自覚した。
一通り、数字の見直しと提出スケジュールの確認を済ませた。
佐久間が、思い切ったように口を開いた。
「……あの、藤堂さん。さっきから気になってたんですけど……瑞希ちゃんとは、どういう──」
バチン、と何かが切れた音がしたのは、自分の中だった。
瑞希ちゃん?
誰がそんなふうに呼んでいいと許した?
俺は顔に出さなかった。
だけど、その言葉の甘さに、腹の底から怒りがわいていた。
「……おまえな、今は“瑞希”のことじゃなくて、仕事だろ」
声は低く、冷ややかに。
“月岡さん”でも“彼女”でもない。
あえて、呼び捨てにした。
自分でも驚くほど自然に、その名前を口にしていた。
佐久間は一瞬、はっとした顔をして、すぐに黙り込んだ。
「とにかく、明日の朝までに仕上げろ。フォローはする」
立ち上がると、頭に血がのぼっているのがわかった。
くそ……俺は、なにをしに来たんだ。
“仕事”だろ?
そう思うのに、脳裏に浮かぶのは、今この瞬間、佐久間の隣にいる瑞希の姿だった。
もう瑞希の部屋には戻らせたくなかった。
“指導”という名の、俺の嫉妬。
彼女にキスマークを残した夜の感触が、まだ指先に残っている