俺様な忠犬くんはご主人様にひたすら恋をする
入社して三年目の春。
会社がアメリカのIT企業を買収し、急きょ出向の話が持ち上がった。
その大きなプロジェクトの責任者に選ばれたのが、藤堂だった。
いつものように、彼のマンションで夕飯を作っていた夜のこと。
「一緒に、来てほしい」
ふいにそう言われた。
包丁を持つ手が止まった。
「会社、辞めてさ。俺と一緒にアメリカで暮らさない?」
思わず、笑ってしまった。
「環は、そういうこと、簡単に言うね」
「簡単じゃない。真剣だよ。お前がいないと、俺、無理だと思う」
でも。
私は、どうしてもその一言が言えなかった。
「私は行かない。仕事、続けたいから」
たったそれだけだった。
あの日の藤堂の顔が、今でも忘れられない。
驚きと、戸惑いと、悔しさと、諦めが、入り混じった表情。
それが、すべてだった。
最後に交わしたキスは、味がしなかった。
「じゃあな」
そう言って出て行った背中を、私は追いかけなかった。
会社がアメリカのIT企業を買収し、急きょ出向の話が持ち上がった。
その大きなプロジェクトの責任者に選ばれたのが、藤堂だった。
いつものように、彼のマンションで夕飯を作っていた夜のこと。
「一緒に、来てほしい」
ふいにそう言われた。
包丁を持つ手が止まった。
「会社、辞めてさ。俺と一緒にアメリカで暮らさない?」
思わず、笑ってしまった。
「環は、そういうこと、簡単に言うね」
「簡単じゃない。真剣だよ。お前がいないと、俺、無理だと思う」
でも。
私は、どうしてもその一言が言えなかった。
「私は行かない。仕事、続けたいから」
たったそれだけだった。
あの日の藤堂の顔が、今でも忘れられない。
驚きと、戸惑いと、悔しさと、諦めが、入り混じった表情。
それが、すべてだった。
最後に交わしたキスは、味がしなかった。
「じゃあな」
そう言って出て行った背中を、私は追いかけなかった。