俺様な忠犬くんはご主人様にひたすら恋をする
その言葉に反応して、藤堂がソファの隣に腰を下ろした。
肩が触れそうなくらい近くて、心臓の音がうるさく感じる。

私は咄嗟に話題を逸らそうとした。

「……懐かしいね、これ。まだ取ってあったなんて」

笑おうとしたけれど、喉の奥がつまって上手く出なかった。

「瑞希…」

その名前を呼ぶ藤堂の声が、やけに熱を帯びていた。
視線を逸らせばよかったのに、逸らせなかった。

顔が――近づいてくる。
ドクンと、心臓が鳴った。

(キスされる…)

そう思って、私は思わず目を閉じた。

だけど、唇が触れることはなかった。

代わりに、藤堂の額が私の肩にそっと降りてきた。
彼の体温と、静かな呼吸が耳元で感じられる。

「……いままで、ごめん」

ぽつりと、搾り出すようなその声に、私は目を開けた。

何に対しての「ごめん」なのか、彼は言わなかった。
でも、聞かなくても分かった。

言葉にしなかったこと。
離れてしまったこと。
そして、今、こうしてまた迷わせていること。

私の胸の奥が、じわりと熱くなった。
< 53 / 89 >

この作品をシェア

pagetop