俺様な忠犬くんはご主人様にひたすら恋をする
藤堂side

瑞希は、鋭い。
ちょっとした視線の揺れにも、すぐ気づく。
今日の打ち合わせの終わり、あの一瞬──俺の中の迷いを、きっと見抜かれていた。

(まだ言えない。いや、言ってはいけない)

俺の中には、決まったことと、まだ動かせない事情がある。

(今度こそ、絶対に俺が守りたいんだ)

だから、今はまだ、触れない。
言葉にも、手にも、唇にも──何も触れさせない。
あいつがもう一度、俺を信じてくれるその時まで。

でも。

(…触れたい。今すぐにでも)

声が聞きたくなる。
髪に指を通したくなる。
唇を奪いたくなる。

心の奥で、渇くような衝動がじっと疼いている。

ソファの隣に座って、何度も抑えてきた衝動。
何度も「今じゃない」と自分に言い聞かせた。

だけど──

(俺が好きになったのは、あいつの全部だ)
(あいつが不安になるくらいなら、少しずつでも、伝えていかなきゃいけない)

そう思いながら、スマホの画面を開いた。
打ちかけては、消す。
言葉を選ぶたびに、想いが滲んでしまいそうで。

──“会いたい”なんて、軽く言えない。

それが、今の俺にできる最大の誠意だった。
< 68 / 89 >

この作品をシェア

pagetop