好きとキスの嵐
梅雨の明けない、真夏の中。


ジリジリと肌を刺すような、そんな陽射しを避けるようにして、今日何回目か分からない日焼け止めを塗る彼女。


此処は放課後の体育館。

今は、俺、宮崎大智が所属するバレー部が練習を始める所だ。

軽い柔軟をしながら、体をウォーミングアップした後、各自ポジションに立ちつつ、ボールを手に馴染むまで、床や壁に打ち受ける。

けれど、俺の視線は彼女をやっぱり捉えて離さない…。


彼女は、俺の三つ上の姉ちゃん…那月(なつき)の友達が、ほぼ無理やり入部させた、マネージャー。
名前は仲野由希さん。

中学の一年の時、一回だけ家の近くでばったりあった、姉ちゃんの少しなんだか仕向けたような、そんな違和感を感じしかない紹介で、彼女に会った瞬間に、その優しい微笑みに俺的には、今まで一度たりとも信じたことが無い、「一目惚れ」というものをした…。


俺はどちらかと言うと、無口で周りからはクールだと言われてしまう方。
まぁ、無口なのは、本人も自覚してるけど。
確かに、あんまり感情の起伏を顔に出したりはした事はないし、周りからは「バレー馬鹿」って言われる程、それ以外熱量を発揮したことは無かった。


そんな俺に、晴天の霹靂というか、誰もが信じられないような事が起きたのは、多分…彼女がマネになってから2週間後だったと思う。

ミーンミンミンミン…

少しズレた沢山のセミの鳴き声が、耳に響く。
スポドリを作りに行った彼女の後を追って、俺は意を決して話し掛けることにした。


「…な、仲野、」

「ん?あれ?宮崎くん?どうしたのー?」


緊張をなるべく彼女に知られないように、呼吸を整えてから声を掛けたつもりが、その言葉が夏で乾いた唇に引っ掛かって、どもってしまった。


でも、そんなことを気にすることも無く、彼女はゆっくりと振り返って、へにゃりと柔く笑い掛けてくる。


あぁー…くそ。
マジで、可愛い。

そう、甘く甘く思考は働いているのに、頭の中はどこか冷静で。
彼女を真っ直ぐ見つめる。
180cm以上あるこんなやつに、確か150cmあるかないかな彼女に向かって話すのは、怖がらせてしまうかもと思い、少しだけ屈んだ。


「あ!もうすぐ休憩時間だよねっ?!ごめんね?早めにスポドリ持っていくか、ら…?」

慌てたように、それこそ本当にわたわたと支度を始める彼女。
そんな彼女に対して、「可愛すぎる」を舌打ちで心の中で盛大にしてから、


「あのさ、俺。仲野の事好きだ、付き合って」


その細い手首を優しく掴んで、恭しく頭を少し下げると、その上から鈴の鳴るような透き通った声で、俺に説いてくる。


「宮崎くん、あ…、あの…顔が…ちか…、」

……やばい。
あー…詰んだ。

部活の途中に何やってんだよ、俺。
多分、耳まで真っ赤っかな俺は小さく唸り声を上げてそのまましゃがみ込んだ。


「わ…?!あの、宮崎くん?!宮崎くん!大丈夫?!」

そう言うと、彼女はしゃがみ込んだ俺の視線まで格好を合わせて、覗き込んでどうしようどうしようと慌ててある。

そんな彼女を見ていたら、やっぱりもう一度言いたくなって…。


「好きだ…俺と付き合って…」


と、一言告げた。
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