好きとキスの嵐
次の日の朝、約束をした通り、彼女の家の前で待っていたら少しだけ前髪を気にしながら、彼女が足早に玄関から出て来た。

「仲野、おはよう」

「うん、宮崎くんおはよう」

なんとなくそれを合図に、手を差し伸べてみると耳まで真っ赤にして、恐る恐る俺の手を取ってくれた。


「ちっさい手、だなぁ」

「…え?」

「仲野の手。ぎゅってしたら、なんか壊しそ」


なんて、苦笑ながらそう言うと、きょとんとした顔をした彼女がふふふって笑って、

「宮崎くんの手は大きいから、ずっと守ってもらえるねぇ」


という、天然なんだかあざといのか、こっちの方が赤面して固まってしまうほど、破壊力ありな笑みでそう言われてしまった。


「…あれ?宮崎くん?そろそろ行こっか」

「ん、あ、そうだな。つーか…手、繋いだまんまでもいい?」

「うん!」


ゆっくり、そっと、仲野の手を握ると、それに応えるように仲野はきゅっと握り返してくれた。


なんなんだよー。

もう、まじかんべーん。

朝からまじで、悶絶しそうだっつーの!


そんな感情をお首にも出さず、俺は時々彼女と顔を合わせつつ、当たり障りのない会話をしながら、登校した。


そして、学校に着いて、「短い時間だったなー」とか思って名残惜しくなりながらも門をくぐろうとすれば、彼方此方からよく分からない悲鳴が起きる。

「うっそ!まじかー…やっぱ宮崎と仲野付き合ってんだ」

「えー?!あたし、宮崎くんのこと気になってたのにー!」


なんなんだよ…まじで、外野が、煩い。

それに対して、彼女は、折角ぷるぷるしている唇をきゅーっと噛み締めて、下を向いている。

そんな様子を見て、俺の中の何かがぷちっとちいさく切れる。

確かに、昨日まではマネっていうだけの関係だったけれど、今は列記とした俺の大切な彼女だ。

そんな彼女を守るのは俺だけ。

だから、俺は彼女の肩をぐいっと自分の方に抱き寄せてから、そのまま自分の腕の中にすっぽりと、閉じ込めた。

そう、完全に他のやつから彼女を見えないようにする。

そして、周りに聞こえるくらいの、静かな声でこう言い放った。


「分かってんなら、邪魔すんなよ。てか、見んな。減る」

そう言うと、ざわざわしていた周りが一斉に静かになった。

多分、今まで以上に低くて怒気を含んだ声になっていたんだろう。

仲野は俺が姿を隠しているから、見えないけれど、多分俺は今物凄く絶対零度な目付きで、周りを見ていると思う。


「…さ。じゃあ、仲野、行こっか」

「う、うん…ごめんね、ありがと」

「あやまんないの。仲野は俺の彼女なんだから。胸張ってて」

きゅーっと、そのままどさくさに紛れ軽くハグをしてから、髪をするりと撫でると、すり、と擦り寄ってくれて、それだけで胸がほんわかとする。

「こういう時、同じクラスだったら良かったよな」

「うん。宮崎くんが居てくれたら、凄く安心するんだけどな…」

ぽつり、と出た彼女の一言に俺は決めた。

「休み時間は毎回会いに行く。昼休みは絶対に一緒にいよ?そしたら、俺の時間は全部、仲野のもんになるだろ?」

そうキッパリ告げたら、彼女はこれ以上ないくらいの笑みで、

「ありがとう、宮崎くん……すき」


と、言って教室に逃げていってしまった。


あー…これは本気で敵わない。
これは、人の目なんか気にしないで、絶対に仲野を守る。

それだけ、俺は心に決めた。
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