あなたに恋する保健室
──コンコン
 また新たな訪室者がやってきた。
 私は作業をしながらいつものように返事をすると、氷室さんだった。
「花田せんせ、おはようございます」
「氷室さん、おはようございます」
 ドアを開けて顔をチラっと見せてニッと笑う少女。彼女が氷室はるかさん。高校一年生。
 先週は二回登校してくれたので、その時にお互いに自己紹介したり、学校のことをいろいろと教えてもらったりした。
 気さくで誰とでも仲良くなれそうな子。第一印象は、そんな印象だった。
 でも、まだ彼女は内面を見せてくれはしない。
「今日はいつもより学校来るの早いと思いません?」
「そうだね、まだ三コマ目だんもんね。今日は調子が良さそうな日?」
「そうみたい! もっとちゃんと来れたらいいのに」
 氷室さんはスクールバッグをソファに置いて腰かける。私と話しやすい位置に座ってくれた。
 その言葉の真意をもっと知りたい。私は言葉を考えながら次の話へと持っていく。
「朝はだいぶ楽になった?」
「うん。でも起きれはするけど、なんだか身体が動かせない時もある感じ」
 彼女は明るくそう言うけれど、そのまま受け取ってはいけない。
 その言葉の裏に隠された本音も考えながら話していかなくてはならない。それが看護師を経験した私ができること。
「そっか。そういうのが続くと、やっぱり辛いよね」
「……うん、まぁね」
 はつらつな声が、一瞬だけ揺らいだ。曇っている気がする。こんなのは初めてだ。
 いつもなら次々と話しかけてくるのに、今はその気配がない。でも私は、敢えて何か話そうとはしなかった。
 氷室さんがソファに深く座って、薬品棚をジーッと眺めながら何か言葉を紡ごうとしていたから。
 沈黙を恐れてはいけない──。
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