あなたに恋する保健室
「え?」

 私は振っていた手が止まる。
 美結は背を向けて歩いていた。その先の方に見慣れた男性が見知らぬ女性と歩いていた。
「京ちゃん……?」
 あの広い背中に爽やかな横顔。ワイシャツとスラックスのスタイルは毎日見ている姿だ。
 隣にいる黒髪を耳の高さで結った細身の女性は誰?
 ざっくりとした大きめのブラックのトレーナーにライトグレーのスラックス。
 私の趣味とは全く違う服装の彼女。
「いや、はは……そうだよね。私、京ちゃんの何ものでもないしね……」
 舞い上がっていたんだ、私。
 京ちゃんと過ごす日々。家にまで上げてもらって深いところまでさらけ出して通じあった気になっていた。
 所詮、私は幼馴染の妹分なんだ。
「……帰ろ」
 もっと早く想いを伝えたら良かったの? それともはじめから相手がいたの?
 後悔してもしきれない。悲しみや疑い、呆れ……いろんな感情が黒く渦巻く。
 涙が溢れて視界が何も見えない。
 こんな顔で帰るの恥ずかしいのに、そんなことどうでも良くなってしまう。
 私は涙を拭いながら走って帰った。
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