あなたに恋する保健室
「ただいまぁ……」
 帰宅途中でいきなり雨が降ってきて、私はずぶ濡れだった。
 冷たくなった身体をタオルで包んで髪の水分を吸収する。
 髪や身体を拭いてから濡れた服を脱いで部屋着に着替えていると、遠くから回し車の音が聞こえてくる。少しだけ心が和んだ。
「金太郎……私、ほんとバカね」
 冷えた手で金太郎に触れたらビックリさせてしまうだろうか。
 そんなことを考える余裕はなかった。
 ケージの向こうでは『ほにゃ?』みたいな顔をして私をじっと見つめてくる。
「ほかほかふわふわ……はぁ、癒される……」
 頬にすりすりして金太郎のぬくもりともふもふで奈落の底に落とされた私の心を修復しようとする。
「金太郎だけは私を裏切らないでね」
 包んでいた手の隙間からひょっこり顔を出して逃げ出そうとする金太郎。
「あっ」
 手から滑り込むように出て、手のひらから腕へと渡り歩く。
「ごはんの時間だね。ねぇ金太郎、聞いてくれる?」
 金太郎にいつもよりたくさん話を聞いてもらう夜となった。
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