あなたに恋する保健室
私が勤めることとなったのは、私立天の星(あまのほし)中学・高等学校。
昨年、前任の養護教諭──いわゆる『保健室の先生』が、妊娠を機に退職したことによる欠員補充で私が採用されたというわけである。
中高一貫校ではあるけど、音楽科があったり部活動の強豪校として有名だったりということで入学する生徒も多い。内訳は、外部と内部で半々といったところだ。
新学期の始業式後、職員室でしかできない仕事を終えると午後になっていた。
私は早歩きで保健室へと向かう。
長い廊下の角部屋。校庭がすぐそこに見える距離。
階段を急いで降りたせいで呼吸が乱れていた。胸に手を当て呼吸を整えてから、保健室のドアの札を『職員室』から『在室』に変える。
息を吸うと、ザ保健室。みたいな匂いがした。消毒や薬品が混ざって充満した形容しがたいこの匂い。なんだか懐かしい気持ちになる。
(これから私がここで……!)
クリニックの看護師として働いていた頃、養護教諭になりたいと思った。それから、ご縁や運もあって偶然この学校で養護教諭として働かせてもらうことが決まったのだ。
ワクワクしないわけがなかった。
柄にもなく子どもみたいにソワソワしながら、気持ちを切り替えるべく保健室にある物品の整理や記録物に目を通し始める。
──コンコン
さっそく生徒がやってきた。
「すみません、遅刻です。お腹が痛くて……あ、新しい先生」
「花田です。よろしくお願いします。じゃあここに名前とクラス書いてくれる?」
「はーい」
遅刻や早退の記録をする用紙に名前を書いてもらう。
その名前を見ると、前任の先生が残してくれた引継ぎノートに書いてあった子だとすぐにわかった。
「無理せずにいってらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
元気そうに微笑んで、軽く会釈をして保健室を出ていった。
見ただけではわからないことがたくさんある。前任の先生には感謝してもしきれない。
遅刻の処理をした後、コーヒーを飲もうとマグカップにお湯を注いだ時のことだった。
昨年、前任の養護教諭──いわゆる『保健室の先生』が、妊娠を機に退職したことによる欠員補充で私が採用されたというわけである。
中高一貫校ではあるけど、音楽科があったり部活動の強豪校として有名だったりということで入学する生徒も多い。内訳は、外部と内部で半々といったところだ。
新学期の始業式後、職員室でしかできない仕事を終えると午後になっていた。
私は早歩きで保健室へと向かう。
長い廊下の角部屋。校庭がすぐそこに見える距離。
階段を急いで降りたせいで呼吸が乱れていた。胸に手を当て呼吸を整えてから、保健室のドアの札を『職員室』から『在室』に変える。
息を吸うと、ザ保健室。みたいな匂いがした。消毒や薬品が混ざって充満した形容しがたいこの匂い。なんだか懐かしい気持ちになる。
(これから私がここで……!)
クリニックの看護師として働いていた頃、養護教諭になりたいと思った。それから、ご縁や運もあって偶然この学校で養護教諭として働かせてもらうことが決まったのだ。
ワクワクしないわけがなかった。
柄にもなく子どもみたいにソワソワしながら、気持ちを切り替えるべく保健室にある物品の整理や記録物に目を通し始める。
──コンコン
さっそく生徒がやってきた。
「すみません、遅刻です。お腹が痛くて……あ、新しい先生」
「花田です。よろしくお願いします。じゃあここに名前とクラス書いてくれる?」
「はーい」
遅刻や早退の記録をする用紙に名前を書いてもらう。
その名前を見ると、前任の先生が残してくれた引継ぎノートに書いてあった子だとすぐにわかった。
「無理せずにいってらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
元気そうに微笑んで、軽く会釈をして保健室を出ていった。
見ただけではわからないことがたくさんある。前任の先生には感謝してもしきれない。
遅刻の処理をした後、コーヒーを飲もうとマグカップにお湯を注いだ時のことだった。