あなたに恋する保健室

第1章

 春の柔らかな風が体育館に満ちている。
 ゆっくりと深呼吸をすると、先程からバクバクとうるさかった鼓動が鎮まっていく。
「それでは、花田優希先生。お願いします」
「はい」
 私は、慣れないスーツを着て『新しい先生』として第一歩を踏み出した。
「この春から養護教諭として勤務いたします、花田優希です」
 ステージ上の演題に置かれたマイクを通した声が反響する。
 私の声が体育館全体に広がると、生徒たちは私に注目する。
「怪我をした時だけでなく、体調がすぐれない時、悩みがある時。どんな時でも構いません。遠慮なく保健室に来てください。教員一年目です。みなさんから学ぶことも多いかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
 ほかの新任の先生は三人。
 いちばん最後に挨拶をすると知った時、どんなことを話そうか迷った。いろいろ考えた結果、たったこれだけの一分にも満たない挨拶となった。
「はい。それでは新任の先生方、ありがとうございました。みなさん、今日から新学期ですので、新たな先生、仲間と共にがんばりましょう」
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