あなたに恋する保健室
──コンコン
大きくノックの音がした。なんだか雑な音。
「どうぞー」
私はなるべく優しく穏やかな声になるように心がけて声をかけた。
私の呼びかけに応じて扉が開いた瞬間、胸が苦しくなった。
「あ、ほんとにいた」
「……京ちゃん」
「うっす。久しぶり」
くしゃくしゃの白衣を腕にかけた男性。もう片方の手には大きな虫かごを持っている。
そして、見覚えのあるキリっとした奥二重の目元にふんわりとしたマッシュの黒髪。背丈は百八十センチは越えているだろうか。スッと通った鼻筋と太めの首筋が男らしさを強調させている。
「それで舘山先生。何の用事ですか?」
私の中の『京ちゃん』は、中学二年生の姿で止まっている。私が彼の実家近くの貸家から新居に引っ越して転校したから。でも、私は彼を一目見て間違いなく京ちゃんだと思った。
京ちゃんこと舘山京介。私の初恋。
「いや、特に用事はないけれど」
そう言って京ちゃんは黒のソファに腰をかけた。
「早く教室に戻った方がいいんじゃないですか?」
「いいんだよ、今はホームルームという名の自由時間だからさ」
京ちゃんがローテーブルに置いた透明な虫かごには一匹のモンシロチョウが、斜めに置かれた細い木の枝に停まっていた。
「なんで虫かご……」
「いいだろうが。教室に展示しようと思って朝に採ってきただけだ。春の虫っぽくていいだろ」
彼はここで生物教師として勤務していた。それは採用後の職員紹介を受けた時に知ったことで。
決して、彼がいるからここを選んだというわけではない。本当に偶然のことだった。
大きくノックの音がした。なんだか雑な音。
「どうぞー」
私はなるべく優しく穏やかな声になるように心がけて声をかけた。
私の呼びかけに応じて扉が開いた瞬間、胸が苦しくなった。
「あ、ほんとにいた」
「……京ちゃん」
「うっす。久しぶり」
くしゃくしゃの白衣を腕にかけた男性。もう片方の手には大きな虫かごを持っている。
そして、見覚えのあるキリっとした奥二重の目元にふんわりとしたマッシュの黒髪。背丈は百八十センチは越えているだろうか。スッと通った鼻筋と太めの首筋が男らしさを強調させている。
「それで舘山先生。何の用事ですか?」
私の中の『京ちゃん』は、中学二年生の姿で止まっている。私が彼の実家近くの貸家から新居に引っ越して転校したから。でも、私は彼を一目見て間違いなく京ちゃんだと思った。
京ちゃんこと舘山京介。私の初恋。
「いや、特に用事はないけれど」
そう言って京ちゃんは黒のソファに腰をかけた。
「早く教室に戻った方がいいんじゃないですか?」
「いいんだよ、今はホームルームという名の自由時間だからさ」
京ちゃんがローテーブルに置いた透明な虫かごには一匹のモンシロチョウが、斜めに置かれた細い木の枝に停まっていた。
「なんで虫かご……」
「いいだろうが。教室に展示しようと思って朝に採ってきただけだ。春の虫っぽくていいだろ」
彼はここで生物教師として勤務していた。それは採用後の職員紹介を受けた時に知ったことで。
決して、彼がいるからここを選んだというわけではない。本当に偶然のことだった。