あなたに恋する保健室
「あぁ先生……! すみません本当にありがとうございました」
「いえいえとんでもないです。それより、大事なくて良かったです」
「おかげさまで……」 
 救急車で病院に運ばれた後、すぐに意識が回復した。念のため精密検査を行っていた頃に澤田さんのお母さんが到着。
 待合室で今回の経緯や処置の説明などをして、検査が終わり私も結果を聞いて一安心した。
 その後、教頭先生が病院に到着し、保護者への対応を引き継いでくれるとのことで私は学校へと戻ることになった。
「もうこんな暗い……」
 辺りはすっかり暗くなっていた。
 タクシーに声をかけて帰ろうと救急外来の隣の正面玄関に向かう。
「よお」
 そこには久しぶりにあの挨拶代わりにでもといった手を軽く上げたポーズを見た。
「京ちゃん」
「迎えに来た」
 京ちゃんはズルいよ。
 今までのことが何も無かったかのようにそうやって声をかけられるんだから。
 私たちは一緒に車に乗って学校へ向かう。
 車で十五分くらい。でも今は帰宅ラッシュの時間帯だからいつもより時間がかかりそうだった。
「大丈夫か?」
「え、何が」
 そう問われた時、何のことかわからなかった。
 でも、ふと自分の手元に目をやると、手をグッと力を込めて握っていた。
「あ……」
「優希のおかげで、あいつは助かったんだろ」
「うん……」
「怖かった?」
「それはもちろん」
 あの時はアドレナリンが出ていたからなんとかなった。でも、冷静になった今は不安や恐怖の後味がする。
 本当にあの判断で良かったのか未だに正解がわからない。
「俺は頼もしかったよ。優希が率先してやってくれて」
「……ありがとう」
 恐怖と闘っていた。自分だけでなんとかしなきゃって思ってた。
 でも、京ちゃんや岡野先生がすぐ隣で協力してくれた。
 だから私も、不安と立ち向かえた気がした。
 車内で私は静かに涙を流しながら、京ちゃんに今の自分の気持ちをありのまま表現した。
 そして京ちゃんは、ただ黙って受け止めてくれた。
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