お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました
心臓の鼓動が、やけに早い。

「翠蘭様……」

侍女が小声で囁いた。

「お見えになりました」

私は立ち上がり、木の陰からそっと顔を出す。

そこには、深い緑の衣をまとった男がいた。

誰よりも静かな気配で、誰よりも気高く歩く姿――

皇帝・李 玄照(り・げんしょう)

その瞬間、目が合った。

一拍の間。

彼の瞳が、私の存在を確かに捉える。

「……!」

思わず息を呑んだとき、後ろから控えていた近侍が近づいた。

「お妃様。皇帝がお呼びです。」

――やった。

胸の奥が震える。

ああ、やっと、陛下の目に留まったのだ。

私は小走りに皇帝の前へと進み、膝をついた。

「皇帝陛下、翠蘭でございます。」

見上げた先、皇帝は私の顔をじっと見つめていた。

「翠……蘭……」

その声は、まるで名前を口にするのが初めてのように、

少しだけ戸惑いを含んでいた。
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