お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました
「……!」

私は、ガバッと体を起こした。

「それ、本当の話?」

「い、いえ……確かなことは。あくまで、伝え話ですので……」

侍女は慌てて手を振る。

けれど、伝え話でもいい。

噂でもいい。

私から何かできるなら、それだけで希望だった。

「皇帝が庭に出られるのは、いつ?」

「……午後の申の刻が多いようです。」

「ありがとう。」

思わず、笑みがこぼれた。

灯りを待つだけの生活は、もう終わりにしよう。

誰かに見つけてもらうのを待つのではなく、自分から、歩み出す。

私は、仕舞いこんでいた上等の衣を引き出した。

ただの伝え話でも、そこに好機があるなら――

私には、もう後がないのだから。

その日、午後の申の刻。

私はひとり、後宮の庭に足を踏み入れた。

整えた衣と髪。

少しだけ濃い紅を差した唇。

風に揺れる枝葉の陰に身を潜め、静かに時を待つ。
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