お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました
「ごめんなさい……お妃様」

侍女が消え入りそうな声でつぶやいた。

私が悪いわけじゃない。彼女たちもまた、十分な給金をもらえぬ中で仕えている。

けれど。

灯りの消えた寝殿は、私の立場そのもののようだった。

火も灯らぬ薄暗い部屋で、私はひとつの封を開いた。

差出人は、故郷にいる弟——明(みん)。

「姉上、お元気にしておいででしょうか」

丁寧な筆で綴られた冒頭の一文に、思わず微笑みが浮かぶ。

たどたどしかった文字が、だいぶ上達している。

あの子も、もう十五になるはずだ。

そこから先は、いつものように家の様子が記されていた。

——兄の曜(よう)が牛の世話をしてくれました。
——母上の持病も、薬のおかげで少し良くなったようです。
——この前の雨で庭先が崩れましたが、僕が直しました。

短い言葉の端々から、懸命に生きる日々が滲んでいる。

目頭が熱くなる。

けれど――。

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