お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました
「……」

私の目が、ふと一行に留まる。

ー ところで、皇帝のご寵愛はいかほどでしょうか。ー

その一文に、指先がぴたりと止まった。

弟たちは、知らない。

私が、皇帝に一度も抱かれたことがないことを。

“妃”という名ばかりで、後宮の片隅に追いやられていることを。

ー 新しい筆が欲しいのですが、ご都合いただけないでしょうか。ー

「……はぁ」

私はそっと手紙を閉じ、胸の奥で深くため息をついた。

金子は、もうない。

香も、灯も、仕送りの余裕すら。

それでも弟たちは、私を誇らしく思っている。

期待に応えられない自分が、何よりも悔しかった。

「申し訳ない。」

そう呟いた言葉は、自分に向けたものだった。

弟たちの願いも、家族の期待も、私は何ひとつ応えられていない。
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