お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました

第6章 寵を知ってしまった妃

そして私は、再び景文の屋敷へと身を寄せた。

彼の香りが微かに残る寝所――懐かしくて、切なくて、それだけで胸がいっぱいになる。

「昨日も、務めを果たしたんだろう。今夜くらい、ゆっくりと休め。」

優しく掛けられた言葉。

けれど私は、そっと彼の首元に腕をまわした。

「いいえ……今夜は、あなたに抱かれたいの。」

その囁きに、景文がわずかに目を見開いた。

私は寝台に上がり、ゆっくりと自らの衣を解いた。

月明かりに照らされる素肌を、隠そうとは思わなかった。

「もう一度……この肌に、あなたの温もりを刻み付けて。」

その声に応えるように、景文も静かに衣を脱いだ。

月光の下にあらわになる、たくましく引き締まった身体。

そして彼の瞳には、確かな想いと渇望が宿っていた。

「……自ら、欲したか。」

景文の低い声が、熱を帯びて私の耳元に落ちる。

その言葉と共に、彼の肌が私の肌に重なった。
< 55 / 100 >

この作品をシェア

pagetop