お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました
「あなた様は今、文部大臣を務めておられる。実力で登りつめ、陛下からも信任を得て、その手でつかみ取った大事なお役目です。」

王景殿の声には、情愛と同時に、父としての願いが滲んでいた。

「道を誤ってはいけません。」

長い沈黙ののち、景文が、ぽつりと呟いた。

「……分かっております。」

その声には、迷いと、そして覚悟が混ざっていた。

「けれど、父上。俺は……この命を賭けてでも、守りたい人を見つけたのです。」

私は思わず、息を呑んだ。

――命を、賭けてでも。

王景殿はそれ以上、何も言わなかった。

ただ静かに、その場を去っていった。

扉が閉まり、寝台の中に沈黙が戻る。

私は、ゆっくりと目を開ける。

そこには、景文の姿。

優しい瞳が、私を見つめていた。

「……聞いていたか。」

「……ええ。」

私はそっと身を起こし、その胸に顔をうずめた。

「……私も、あなたを守ります。」

景文の腕が、強く私を抱き締めた。

まるで、決して離すまいとするように――。
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