お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました

第8章 選ばれるのは誰か

そして正式に、景文は「第四皇子・李景文」として、皇帝の李家へと籍を移された。

かつての「周 景文」という名は、今や歴史の片隅にそっと仕舞われる。

「俺としては、周のままの方が気楽でよかったんだけどな……」

肩を竦めながらも、新たに与えられた立派な宮殿の広間を見渡す景文は、どこか落ち着かない様子だった。

煌びやかな調度品、重厚な調香、完璧な礼法を備えた宦官や侍女たち。

「……あーあ、これで俺も本格的に政治介入か。」

新しく与えられた書斎の机に腰を下ろし、手元に置かれた詔書や奏状をめくりながら、景文はため息を漏らした。

私はその様子を少し離れて、微笑んで見ていた。

「殿下。」

そう呼びかけて、そっと景文の背中に手を置くと――

「……止せ。」

彼は振り向かずに、少しだけ声を低くする。

「景文でいい。」

その言葉に、私は小さく笑った。
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