お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました
「でもね、景文。これからの方が大変よ。皇子になったあなたを巡って、あちこちから取り入ろうとする人が出てくるはず。」

「ふむ、それは困ったな。」

「誰かが優しく近づいてきても、すぐ信じちゃダメよ?」

「大丈夫だよ。」景文は私の手をそっと取ると、親指で優しく撫でた。「俺が信じるのは、翠蘭だけだから。」

胸がじんわりと熱くなる。たとえ周囲がどれだけざわつこうと、この人のそばにいられたら、それでいい。

そして――
私たちは、名実ともに夫婦となった。

これから歩む未来が、どれほど波乱に満ちていようとも。
この手を、決して離さない。

そして私は、正式に妃となり、堂々と後宮の屋敷の中を歩けるようになった。

これまで遠慮がちに通っていた廊下も、侍女たちの視線を気にせずに歩ける。

「庭も歩けるのね……」

そう呟きながら、桃の花が咲き誇る庭園の小径をたどっていく。

まるで桃源郷のようなその場所に、微かな子供の笑い声が混じった。
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