姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
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遠くでチャイムの音が聞こえる。1時間目の授業が始まったのだろう。
それなのに私は広瀬真と2人、旧校舎にいるわけで……。
荒っぽい足音を立てながら歩く広瀬真の後を、私は小走りで着いて行く。――と言うか連行されている。
ずっと握られてる手首が痛い。
振り解きたいのに掴んでくる手がビクともしないともしない。
古い階段を登って、2階の1番奥の部屋。
いつもの集合場所である空き教室に入ると、広瀬真はまたしても教室のドアを力強く閉めた。
バン!という爆音に一瞬怯んでる隙に、広瀬真は風を切る勢いで私の方へ振り返る。
わけがわからず目が彷徨いている私を広瀬真は強く睨み、思い切り息を吸い込んだ。
「おっまえは……!
いつも全方位敵に回すような言動してっから、毎回危険な目に遭うんだろうが!!」
近距離での大声に鼓膜がビリビリ震えて、反射的に眉を顰めて少し身を引く。
広瀬真の顔は、なぜか怒っている。
「っはぁ〜?あんな落書きされるのなんか大したことないわ。実害ゼロ、物隠されるより100倍マシ!」
広瀬真の怒りの理由がわからなくて、なのになぜか怒られて、こちらもムキになって言い返す。
「大体ね、あんなくっだらないイジメなんか日常茶飯事なの。いちいち怖がってたらこっちの身が持たなー…」
「そういうことに慣れるなって言ってんだよ!!」
広瀬真の怒号に私はまたビクッと揺れる。
私もそれなりに声を張っていたと思ったのに、それ以上の大声に圧されてしまった。
私達しかいない旧校舎に、広瀬真の怒鳴り声が反響した気がした。
けれど、それっきりしんと静まり返ってなんだか気まずい空気が流れた。
「………。何それ、意味わかんない。」
言い返さないと負けた気がして、絞り出すように言った言葉を最後に私達の会話は終わった。