姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
Ep.35 初めての、
「…痛い?」
「まぁ、フツウ…。」
先生が不在で誰もいない保健室。
私と広瀬真は低い丸椅子に座って向かい合っていた。
氷嚢を当てがう痛そうな姿が私の気まずさを増幅させて、広瀬真を見つめる目が泳いでしまう。
広瀬真も決まり悪そうに大人しい。
伏せた目線を窓の外に向けている。
広瀬真の手に置かれた氷嚢から、じわじわと冷たい水滴が染み出している。
その雫が床に落ちる音だけがやけに大きかった。
近江涼介と榛名聖は教室に戻ってしまった。
榛名聖は残りたがったけど、近江涼介が引っ張っていった。
(今こそ、今こそ言う時だ…!)
覚悟を決めた私は、ゴクリと唾を飲み込むと広瀬真をじっと見つめた。
速い心臓の音が耳の奥でうるさく鳴り響いている。
くっついたまま離れない唇を、やっとのことで開いて大きく息を吸い込んだ。
「――ゴメンナサイ!
……あと、助けてくれてアリガトウ……。」
緊張と気迫で目はカッと開き、肩と手に力が入ってしまって、正直カッコ悪い。
でも、なんだかすこーし胸がスッとした。
「お前……」
広瀬真がハッとした様に息を呑む。
どんな言葉が返ってくるかと、私の背筋がピンと伸びた。
「ごめんとありがとう言えたんだな。」
「どういう意味かな??」
広瀬真は目も口も丸くして素で驚いている。
失礼発言に力が抜ける。
真面目に謝ったのがちょっと恥ずかしくなってきて、照れ隠しに顔を顰めた。