姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
#兄、襲来

Ep.40 兄、襲来


相も変わらず平和な日々が続いている。

あまりに平和すぎて「暇!」と叫びたくなるけれど、前回それでどえらい目にあったので言えなくなった。

ソファのひじ掛けにもたれるようにして海辺のマーメイドのようにうなだれていると、何を企んでいるかわからないティータイム中の榛名聖と目が合った。

「あー、忙しい忙しいっと!」


だから慌てて起き上がり、3人が囲む丸テーブルの席に加わる。

みんな揃えば賑やかで、くだらないやりとりをして1日が終わっていくのだった。

***

放課後、HRが終わり広瀬真といつもの小競り合いをしながら教室を出ると、ちょうど同じタイミングで出てきた近江涼介と榛名聖に出くわした。


特に旧校舎に集まる予定もないのでなんとなく4人一緒に帰る流れになり、玄関を出ようとする。

――と、校門前に人集りができているのを見つけた。


「ダルッ出られねーじゃねーか。」

校門からの出入りを妨げる人集りに、あからさまに嫌そうな顔をして広瀬真が言った。


人集りを作っているのはよく見れば女ばっかりで、近づくごとに大きく聞こえる喚き声も甲高くて耳障り。

こんな迷惑なものを作れるのは、この学校ではH2Oの皆様だけのはずだけど、はて?

「……何。」

人集りの中ではなく、今私の隣と後ろにいる皆様方を怪訝そうに見て首を傾げる。

近江涼介も眉を顰めて同じ表情を返してきた。


「もしかしてアンタら、分身してる?」

「頭トチ狂ってんのかお前。」

淡々してるくせに切れ味抜群の近江涼介のツッコミに「きー!」と叫んで殴りかかる。

しかしおでこを押さえつけられてあっさりと距離をとられてしまった。


「うちの妹に何さらしとるんじゃぁあああい!」

人混みの中心から閃光が走り、何かが空気を裂いた。
砂煙を立てて走り抜ける風圧。次の瞬間——


ドンッと何かに衝突された。

その衝撃で体が浮いたと思ったら、硬い胸板に背中を預けていた。

――よく知った薄いのに筋肉質なその感触。

その瞬間、状況を察知した私は驚きから一転スン、と冷静になる。

「何しに来たの?お兄ちゃん。」

ふん、と鼻息も荒く私を抱きかかえながらH2Oと対峙する人物に、3人は素で驚いた顔をした。

「お兄ちゃん?!」
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