姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
「貧乏大家族ってよく聞くけど、お金持ちも大家族なのね…!
あぁ、榛名家に限った話かもだけど!」
声のトーンが上がる私とは対照的に、榛名聖は自嘲気味に笑う。
「ま、子どもっていろいろ使い道あるからねぇ。
跡取りとか、経営のパイプづくりとか……」
えげつないセリフにドン引きして思わず手が止まる。
賑やかなテレビの音に混ざって、水道の水が勢いよく流れシンクを叩く音がノイズになって響いている。
「ま、4人目の俺は特に役割もなくて自由だけどね~。」
にっこりと穏やかで呑気な言動。
それなのに変な緊張感に胸がざわつく。
「へ……へー!そうなの。
いいじゃない、そっちの方が好き勝手できて!」
焦りが早口に変わる。
場を和ませようとして言ったのに、空気が一段重くなる。
蛇に睨まれた小動物の様な気持ち。
ぎこちなく榛名聖を見上げて、恐る恐る口を開いた。
「――なんか……怒って、る……?」
瞬間、光のない榛名聖の目が丸くなって表情が消える。
その静けさにドキリとして、泡を流す水音に逃げ込むように、視線を皿へ落とした。
「――……お気楽でムカつく。」
ほぼ声にならかった榛名聖の呟きは、遠くのテレビの音と水の音に飲まれて聞こえない。
ピカピカに磨き上げた皿に映る榛名聖の顔には、暗い影と焦燥が滲んでいる。
――ふと、皿を拭く手を止めた榛名聖の手がゆっくりとこちらに伸びてくる。
そして人差し指でなぞる様に私の頬を撫で、泡を掬い上げた。
「……あは、別に怒ってないよー?
ビクビクしちゃって、可愛いねぇ⭐︎」
――――嘘。
色香を纏う妖艶な微笑みは、底知れなくて怖い。
ずっと消えない緊張を、スポンジを握りしめて抑えた。
「……人を臆病な小動物みたいに言わないでくれる?
もっと他に可愛いとこあるでしょ。顔とか。性格とか。顔とか。」
頬に触れている手と、見つめ合ってしまった時間を振り払うように首を一振りして洗い物に戻る。
「えー、これもダメなの〜?つまんなぁい。」
そうしたら張り詰めた空気が一気に緩んで、榛名聖の口調と笑顔もいつも通りになった。